内部に侵入したアウルはステラと共にすぐ指示された場所に身を隠す。 「……アウル……」 そのまま次の行動のタイミングを見計らっていたときだ。ステラが何かに気づいたらしい。 「わかってる」 とっさにウエストにつけたポーチから銃を取り出す。ステラもまた、その手にナイフを握りしめた。 「ムウ兄さん所の、お子様か?」 そのまま相手を攻撃しようか。 そう思った瞬間だ。 その相手が苦笑混じりにこう問いかけてくる。 「誰だよ、あんたは」 警戒を解かないまま、アウルは聞き返した。 『もし、目的の人物にあったときは、うかつについて行くんじゃない。相手から自分の名前を聞き出せ。俺が教えた名前を口にしたら、信用していいからな』 でなければ、敵だ。ここに侵入する前に、二人はムウからこう言われていたのだ。 彼の言葉は彼等にとっては《絶対》。 だから、それに逆らう事なんて考えられない。 「本当に、兄さんから聞いたとおりだな」 言葉と共に、彼はゆっくりと近づいてくる。そうすれば、黒い色彩の中で唯一異なる色を持った瞳が確認できた。それは、キラのそれによく似ていた。 「俺はカナードだ。カナード・バルス。これでいいか?」 さらに、彼はこう口にする。それは、ムウから教えられた名前と同じものだ。その事実を確認して、二人はそれぞれの得物をしまう。 「本当に、よくしつけられているな……」 感心しているのかあきれているのかわからない口調で彼はこう呟く。 「何が言いたいんだよ」 その態度が気に入らなくて、アウルはこう言い返す。 「お前らが、今だけでいいから兄さんと同じ程度に俺の言葉にしたがってくれれば、キラ達を安全に連れ出せる。そう思っただけだ」 しかし、カナードはそんな言葉に機嫌を損ねた様子を見せずにこう言い返してくる。 「キラ、元気?」 大切な名前が出たからだろうか。ステラが即座に彼に向かってこう問いかけた。 「一応な。シンとラクス嬢がいるから、そう見せているだけかもしれないが……」 だが、内心はどうだろう。 カナードはこう付け加える。 その言葉の裏に、彼が本気でキラを心配している、という事実。そして、キラの現状が決して芳しいものではないという事実が感じられた。 なら、少しでも早くキラをムウ達の元へと連れ帰りたい。 ムウや自分たちだけではなく、あの艦にはラウとアスランもいる。 他の連中にしても、キラのことを心配しているというのが自分にも伝わってきた。だから、あの艦に連れ帰った方がキラのためになるはず、とアウルは思う。 そのための方法を与えてくれるというのであれば、相手が誰であろうとかまわない。 こうも考えてしまうのだ。 「で、俺たちは何をすればいい?」 あれこれ聞く必要はない。重要なのは結果だ、と判断してアウルはこう問いかけた。 「まずは付いてこい。もうじき、あちらが動くはずだ」 それで艦内が手薄になるはず……と彼は囁き返す。 「その時をねらって、あの三人を取り戻す」 タイミングが重要だ、と彼はさらに言葉を重ねる。でなければ、キラ達を取り戻せないと。 「わかった。命令があるまでは、動かない」 「ステラ、がんばる」 この言葉に、カナードは満足そうに微笑んで見せた。 「敵艦、捕捉しました!」 この言葉に、ブリッジ内に緊張が走る。 「艦を停止! 第二戦闘配備で待機」 それを気にすることなく、ナタルはこう命じた。 「本艦は現在、敵の索敵範囲ぎりぎりにいる。命令があるまで、うかつな行動は取るな。いいな?」 現状の戦力では、こちらの方が不利だ。 そうである以上、タイミングを見計らって攻撃を仕掛けるしかない。まずは、相手に自分たちの存在を知られないことが重要なのだ。ナタルは言外にこう告げる。 「わかっています」 この間に乗り込んでいる多くのものは今までの戦争を生き抜いてきた者達だ。だから、彼女の言葉にも即座にこう頷いてみせる。 いや、彼等だけではない。 初めて《戦場》に出たフレイにもそれは伝わったようだ。 「……キラは、生きているのかしら」 まるで不安を忘れるかのようにこう呟く。 「大丈夫だろう。奴らも彼の才能を利用したいはずだ。だからこそ、あの場から連れ去ったのだろうな」 それが《プラント》全体としてなのか、それとも個人なのか。それはわからないが……とナタルは口にする。それがわからないからこそ、困っているのだ……と言う言葉を、彼女はかろうじて飲み込んだ。 その時だ。 「艦長!」 不意に呼びかけられる。 「どうした?」 何があった、と彼女は即座に聞き返した。 「敵艦の通信をキャッチしました。お聞きになりますか?」 「もちろんだ」 彼の言葉にナタルは即答をする。そうすることで敵の状況をつかめるのであれば、なおさらだ、とも。 しかし、次の瞬間、彼女たちの耳に飛び込んできたのは、信じられない声だった。 「何で……何で、カガリ・ユラ・アスハが……キラを取り戻しに来ているのよ!」 フレイがこう叫ぶ。 その答えを誰も知らなかった。 |