「あのデュランダル氏がな……」 パイロット控え室で顔を合わせた瞬間、ディアッカがため息混じりにこう告げる。 「キラ・ヤマト……とはどんな奴なんだ?」 ふっとイザークがこう問いかけてきた。 「イザーク?」 何故、そんなことを聞いてくるのだろうか。アスランはそう思う。 「あいつらからは、いろいろと話を聞かせてもらったがな。あくまでも《ナチュラル》の視点からのものだならな」 自分からすれば、かなりのお人好し、としか思えなかったんだが……と彼は辛辣とも言える言葉を口にしてくれる。 「そうか?」 しかし、ミゲルがこう言い返す。 「お人好しなのは否定できないが……だが、それを言うならあの連中だって凄かっただろう? 俺たちとごく普通に接していたじゃないか」 偏見も何もなし、という言葉にラスティも頷いている。 「っていうか、むしろ地球軍の連中の方が嫌われてたよな」 さらに彼はこう付け加えた。 「言われてみればそうか。あいつらは、俺らには普通に話しかけてきていたのにな」 ディアッカも何か思い当たることがあったのだろう。大きく頷いている。 「だから、それが全部《キラ・ヤマト》のせいだ、とあの連中は言うんだ! だから、どんな奴か知りたいと思ったとしても、おかしくはないだろうが!」 イザークがまるでだだをこねるかのようにこう叫ぶ。 「わかってるって……俺としても、どういう奴なのか、知りたいしな」 そんなディアッカをなだめながらディアッカがアスランに言葉をかけてきた。 「どういう奴って……お人好しなのは否定できないが……」 一体どのような言葉を口にすれば彼等に《キラ》という人間を正しく伝えられるだろうか。そう思いながらも、とりあえず思いついた言葉をアスランは口にし始める。 「あいつ自身が、第一世代……と言うこともあって、コーディネイターとかナチュラルだとか気にしない奴だ」 それに、彼の家族もそんなことで《他人》を区別するな、と教えていたはず。それは三人の兄たちにも同じ事だったのではないだろうか。 「もちろん、そんな奴だから家柄とか何かも気にしない。相手の性格やなんかで判断するんだ」 もっとも、それについて誰にも文句を言わせないだけの血縁を、ヤマト夫妻は持っていたらしいが。キラはその事実を知っていたのだろうか。ラウに問いかければ教えてもらえるかもしれないが、今はそのような場合ではないだろう。 「俺も、だから、キラの友達になれて誇らしかったことは事実だ」 キラに気に入られることがある意味ステータスになりかけていたこともある。だが、そんな奴はがんとしてはねつけていたのだ、キラは。 そして、どんな相手でもかならずその人間特有のいいところを探してくれる。 さりげなくそれをほめてくれるから、あるいはキラは皆にすかれていたのだろうか。 「キラ自身がそういう人間だから、周囲の連中だってそう考えるようになったのかもしれないな」 少なくとも、あのころは家柄とか親の職業を自慢する人間も、それを目当てで近づいてくる人間もいなかった。 「……キラの側は、本当に居心地が良かった。本国に戻ってから、人間不信になりかけたぐらいにな」 お前達も身に覚えがあるだろう、とアスランは問いかける。そう知れば、イザークやディアッカ、それにニコルが頷き返してきた。 「……否定できないな、それに関しては」 特に、親が最高評議会議員になってからと言うもの、それがひどくなった……とイザークはため息をつく。 「でも、そいつはそんなこと、知らないんじゃ……」 「知っていたはずだぞ。うちの父もキラ達とあったことがある。もっとも、ムウさんに関しては、既に地球軍に関わっていたからな。遠慮したんだろうが」 彼だけはパトリックの前に姿を現さなかったのだ。 それでも、あれだけハルマ達と仲が良かった彼のことだ。ムウの存在は知っていたかもしれない。いや、それだけではないのではないか。ムウ本来の立場も知っていた可能性もある、とアスランは思う。 「……そういや、あの話はマジなわけ?」 まさかと思ったんだけど、とディアッカが声をかけてきた。 「ムウさんが、実はオーブの軍人で……地球軍に潜入していただけというあれか?」 自分だって、ここで聞かされたときには『嘘だろう』と思ったのだ。他のメンバーがそう思ったとしてもおかしくはないだろう。そのくらいのことはアスランにもわかる。 「どうやら、本当らしいぞ。本人にも確かめた」 最初からそうするつもりだったらしいのだ、彼等は。 「キラを守るためだったそうだ。あいつの、生まれ方が……ブルーコスモスには許せないことなんだと、キラが生まれる前から、あの人は知っていたらしい」 だから、何ができるのかを考えながらオーブにいたらしい。 そして、カナードがキラを守れるようになったのを確認して、地球軍潜入を実行に移したのだとか。 「つまり……地球軍がブルーコスモスの支配下にあると言うことは、有名な話だったのか」 ため息と共にラスティがこう口にする。 「いや、本人達は知らなかったと思うぞ。知っていたのは、それこそ上の連中か、関係者だけじゃないのか」 少なくとも、あいつらは知らなかった、とミゲルが言い返す。 「あいつらも……オーブの方で引き受けるそうだ」 ムウの部下だったからか。考え方が似ている奴が多いらしい。だから、大丈夫だろうと判断されたのだ、とか。 あるいは、もっと別の理由があったのかもしれない。しかし、それを問いかけることは自分のするべき事ではないだろう、とアスランは判断した。 「あの三人にしても、あの方の命令を優先している……と言うことは、あの方の判断は間違っていなかった、と言うことでしょうね」 ニコルが苦笑と共にこう告げる。 「まぁ……今回のことがなければ、まだしばらくは、あの人も地球軍のままだったんだろうがな」 キラのためであれば、迷わずに今までの地位を捨てられるのだ、彼は。 「そういう人間が身近にいるのであれば……あいつの態度も納得か」 ナチュラルだろうと、あの男の戦歴は尊敬に値する……とイザークは口にする。 「ついでに、オーブのお姫様も、な」 もっとも、あれは別の意味で問題があるが……とディアッカは笑う。 「まぁ、元気がいいお姫様だよね」 苦笑混じりにラスティが頷いてみせる。 「でも、姉弟なんだろう、あの二人。環境が性格に関係あるっていうのは本当なんだろうな」 アスランの話してくれた《キラ》と彼女を比べると、と言うディアッカに、アスランはどう答えようかと悩む。実のところ、アスランはまだ彼女に会っていないのだ。 「って言うより、ディアッカの態度が問題だ、と思うんだけどね」 あれが怒らせているだけじゃないのか、とラスティがつっこめば、 「そうだな。完全に礼儀を忘れているようだしな、お前は」 とイザークも口にする。 「頼むから、キラにはそんな態度取らないでくれよ」 ただでさえ、今は厄介な状況に置かれているのだから、とアスランは呟く。 「俺一人が悪いのか!」 ディアッカの叫びが室内に響き渡る。それに誰もが笑いを漏らした。 |