「お久しぶりですね、グラディス艦長?」 にこやかな口調でラウはモニターに映し出された女性に向けて呼びかける。 しかし、相手はそうではないらしい。かなり厳しい表情を作っていた。どうやら、デュランダルから《個人的》に頼まれた内容と最高評議会からの指示内容のギャップに驚いているのかもしれない。 『あまり……再会を喜べない状況ですけどね』 それでも彼女は律儀に言葉を返してくる。 「そうでしょうかな? あなた方が、強引に連れ出した少年達をお引き渡し頂ければ、それですむ話だ、と思いますが?」 そうすれば、全ては丸く収まる……とは思う。しかし、そうしてはくれないだろう、とラウは思っていた。 『ですが……』 「デュランダル氏がその中の一人の実の父親だ、と言うことですか? 今までに三度、殺されかけたあの少年のそばに一度も姿を現さなかったそうですが」 どうやら二度目の時にはもう《キラ》の存在に気づいていたらしいのに、とラウは口にする。 「彼が実の《父》だ、というのであれば、養父母を亡くしたその時に名乗り出てくれれば引き取ることも可能だったはず、とは思いませんか?」 しかし、彼はそれをしなかった。 そして、未成年のまま放り出された彼を引き取ったのはマルキオだ。 しかし、それは表向きのこと。《キラ》という存在を表に出さないようにするためだった。 現実問題としては、今の彼は《ウズミ・ナラ・アスハ》が後見人をしている民間人と言うことになっている。それは、彼の養父であった《ハルマ・ヤマト》がウズミの血縁であったという理由からだ。今回の件でそれは公になっているらしい。 プラント本国でも、それは確認されているのだから『嘘だ』といういいわけも通用しないだろう。 「現在の彼は、正式ではないとはいえ《アスハ》の一員として認知されている。これ以上、デュランダル氏のわがままに付き合っていると、最悪、オーブと敵対関係になるかもしれませんが?」 だからこそ、その可能性が十分にあり得る、と相手に気づいてもらえるだろうか。 こちらでは《カガリ・ユラ・アスハ》が先ほどからモニターをにらみ付けているのだ。そして、彼女の性格はキサカから既に聞いている。爆発したらどうなるかわからない……とカガリの背後にいるキサカの視線が告げていた。 『ですが、私としては即座に判断できないのです。我々は彼の指示に従うよう、命令されておりますので』 それが撤回されない以上、勝手な行動は取れないのだ……とタリアは言い返してくる。 「それが、最高評議会議長、及び国防委員長連名の命令書であっても、ですかな?」 ずいぶんとまた義理堅いことだ……と思いつつ、ラウは相手に問いかけた。 「それに、こちらにはアスハの代表として、カガリ嬢もいらっしゃいます。その彼女が自国の民を引き渡して欲しい、とおっしゃっていられます」 言外に、ここにオーブとしての判断を下せる人間がいるとラウは告げる。だから、ごまかしは通用しない、とも。 『それは……』 本当なのか、と彼女が聞き返そうとしてきたときだ。 「カガリ・ユラ・アスハだ! 貴殿らが連れ去った我が国の民間人が無事かどうか、確認させて欲しい! 今すぐ、だ」 こう言ってカガリは進み出てくる。 そのまま、まっすぐにタリアをにらみ付けている彼女は、まさしく《オーブの獅子》の愛娘だと言えるだろう。生まれたばかりの頃の彼女を知っている身とすれば、立派に育ってくれた、と言うべきなのだろうか、とラウは思う。しかし、どう見ても《少女》には見えないな、と思ったのは、その視線の強さ故だろうか。 『……残念ですが……』 自分にその権限はないのだ……と告げるタリアに、カガリの瞳が怒りに染まる。 「それが、勝手に我が国の民間人を連れ去った人間のセリフか!」 彼女の怒鳴り声が周囲に響く。 『私は、彼を保護した……と認識していますが?』 それを打ち消すように、男性の声が彼等の耳に届いた。それが誰のものなのか、ラウ達にはわかっている。 だが、カガリはそうではない。 「何者だ、お前は」 思い切り、うさんくさそうな表情を作る。それに、相手は余裕のあるような笑みを返してきた。 「……わかっているのか、お前らは」 目の前の三人――正確に言えば、問題がありそうなのはそのうちの二人だ――に向かって、ムウはこう口にする。 「パイロットスーツだけで目標の艦に接近。そのまま内部に侵入……と言葉にすれば簡単だが……実は危険なんだぞ?」 パイロットスーツはコクピット内で動きやすいことを最優先として作られている。そのために気密は確保されているが、素材そのものは薄いのだ。船外作業用のそれとは違い、ちょっとした衝撃で破れかねない。 もちろん、すぐに全ての空気が失われるわけではないし、実際、パイロットスーツだけで潜入をした連中もいる。 だから、不可能だとは言わないのだが……とムウは思う。しかし、目の前の三人に、そんな訓練をさせた覚えは自分にはないのだ。 「大丈夫、大丈夫」 「キラがいるから……行くの」 アウルとステラにはムウの言葉よりも《キラ》の側に行く、と言うことの方が重要らしい。その事実にムウが小さくため息をつけば、スティングは苦笑を浮かべる。 「……ともかく、全員行かれると困るな。居残りは……」 「スティングだろ?」 即座にアウルが口を挟んできた。 「アウル」 あきれたようにムウがこう言えば、 「だって、俺、だめだって言われても、絶対行くぜ?」 しれっとした口調で彼は言い返してくる。 「ステラも……行く、の」 さらにステラまでがこんなセリフを口にした。しかも、口調はいつものものなのに、その表情は戦闘時のものへと変化している。 「ったく……」 勝手に決めるな、とムウは思わずぼやいてしまう。 「諦めるしかねぇじゃん」 そんな彼の耳に、スティングの言葉が届いた。 「こいつら、止めるのは無理そうだぜ」 妥協するしかないだろう……という言葉に、ムウは何と答えればいいのか、悩む。 「それにさ。向こうに、こいつらの手綱を取ってくれそうな奴がいるって言ってたじゃん」 任せてしまえば、というスティングの言葉が、ムウには悪魔の囁きに思える。 確かに、それが一番楽だ、とは思う。しかし、逆に言えば諸刃の剣なのだ。下手な動きを取れば、それは即座に作戦の失敗を意味することだろう。 「……お前ら……そいつの命令を、俺の命令と同じように聞けるのか?」 ムウは仕方がない、と言うようにこう問いかける。 「キラのためだろ」 「……ムウがそうしろって言うなら」 二人は即座にこう言い返してきた。 「勝手なことをしたら、キラが死ぬかもしれないぞ?」 ついで、と言うようにムウはこう言って二人を脅す。その時の反応を見て、ムウは大丈夫だろう、と判断を下した。 |