内部の状況がわからない。
 だからきっと、行動を起こす事をためらっているのだろうか。
 しかし、その間にもキラは……と思うと何とかしなければいけないような気になってしまう。
「ムウがやれ……って言うなら、何でもするのにな、俺は」
「……ステラも」
 キラを助けに行く、といつもの口調で口にした。
「お前ら……」
 勝手に先走るなよ……とスティングはため息をつく。
「俺たちの行動が、ムウの足かせになってはいけないんだからな」
 そのせいで、彼の立場が悪くなる可能性すらある、と言外に付け加えるスティングに、
「わかってるって」
 アウルは軽い口調で言い返してくる。
「俺らにとって、ムウは《絶対》だからな。キラは《特別》だけど」
 そうだろう、と言う言葉にはスティングも同意を見せた。実際、自分の中でもそんな位置づけになっていると思っていたのだ。
「たださ」
 不意にアウルが口調を変化させる。
「この艦が追いかけている連中って、あいつらの仲間、だろう?」
 それも同じ軍の……という彼にスティングは黙って頷いて見せた。
「だからさ。いざというときは俺らがやった方が後腐れなくていいんじゃねぇかなって思うんだ」
 自分たちには、何のこだわりもないから……とアウルは口にする。
「……殺すと、キラが悲しむよ?」
 ふっとステラがこんなセリフを呟く。
「わかってるって。ただ、あいつらが味方に銃を向けられるか、って事だ」
 それができなければ、キラを取り戻せない、という状況であればムウ達の他にアスランもやるだろう。
 しかし、その他の連中はどうなのだろうか。
 アウルはこう言い返す。
「だから、その時は俺たちがやるって言いたいだけだって」
 その判断は、ある意味正しいのだろう。自分たちと違って、彼等にはいろいろとしがらみがあるだろうから、とスティングも納得する。
「そうだな。その時は、俺たちがやった方がいいだろうな」
 しかし、とも思う。
「ただし、それは最後の手段だ。ムウの許可が出ないうちは、俺たちは見ているしかできない」
 自分たちはあくまでも傍観者だ。
 キラを取り戻すメインとして動くのは、ラウやアスラン達でなければいけない。スティングはそう考えていた。
「……悔しいよな、本当」
 自分がキラを助けたかったのに……とアウルは呟く。
「ステラが、キラを助けるの」
 負けまいとするかのようにステラも即座にこう告げる。
「……お前ら……実はそれが本音かよ」
 颯爽とキラを助けに行って、感謝されたい。あるいは、側にいてべたべたしたい、と言うところか、とスティングは二人の態度からそう判断をした。
「だめなの?」
「いいだろう。キラは《特別》なんだから!」
 二人は口々に自分の意見の正当性を主張してくる。
 これをムウに教えるべきか否か。
 スティングは本気で悩んでしまった。

「……カガリ……」
 ガモフの展望室で宇宙を見つめている彼女の耳に、キサカの声が届く。
「もう少し、一人にしてくれ」
 そんな彼の方を振り向くことなく、カガリがこう言い返す。
 自分が《彼等》に会ったとき、どうすればいいのか。それがどうしてもわからないのだ。
「一人で考えていても、答えが出る問題だ、とは思いませんが?」
 違いますか? とキサカは落ち着いた声で問いかけてくる。
「そうかもしれないが……だが!」
 誰に相談ができるというのか、とカガリは思う。
「いきなりそんなことを言われても……何も知らないんだぞ!」
 誰もその事実を教えてくれなかったのだし……と彼女は口にする。
「ですから、相談すればいいのですよ」
 苦笑混じりにキサカはさらに言葉を重ねてきた。だが、この場で相談できる相手なんて限られているだろう、とカガリは思う。そして、肝心の相手が自分の聞きたいことを知っているかなんて、わからないのだ。
「私にしても……《キラ》君本人のことは知らなくても、上の二人については多少知っていますからね」
「キサカ!」
 しれっとして彼が口にした言葉に、カガリは怒りを感じてしまう。
「聞かれませんでしたからね」
 こういう人間だ、とうすうすは気づいていた。しかし、こっそりと先回りしてくれてもいいではないか、と思わずにはいられない。特にこんな状況であれば、そんなことまで頭が回らない、というのが本音だ。
「私は、お前が知っていることを知らなかったぞ!」
 だから、ついついこう怒鳴ってしまう。
「そうでしたか? 少なくとも、一人は《オーブ軍》の籍を持っていると言いましたよ?」
 だから、自分に知っているかどうかを問いかけるのが普通なのではないか、と彼はしれっとした口調で付け加えた。
「……だったら、さっさと教えろ!」
 その口調に、カガリが今まで必死にこらえてきた堪忍袋の緒が切れる。
「カガリ……そういう態度は、これからの交渉にマイナスになるかもしれませんよ?」
 そんな彼女に向かってキサカはさらにこう注意を促してきた。
「わかっている! お前相手でなければ、誰がこんな事をするか!」
 即座に彼女はこう怒鳴り返す。
「知っていることを、残らず全部教えろ!」
 この言葉に、キサカは苦笑を浮かべた。