「そうか……カガリ嬢が合流したか」
 ガモフからの報告に、ラウは満足そうに頷く。
「では、本国からの指示通り、彼女と護衛殿にはこちらにご足労いただくように」
 ラウはこう告げると、アデスへと視線を向けた。
「ニコルからの連絡は?」
 彼は今、キラ達が拉致されている艦を確認するために出撃しているのだ。
「まだです。あるいは、内部に潜入している《彼》と連絡を取っているのかもしれません」
 彼はカナードとも顔見知りだ。そして、はっきりとは口にしないが、かなりの信頼感を抱いているようにも思える。
「そうか」
 それらの考えを表に出すことなく、ラウは頷く。
 こう言うときに、表情を隠してくれる仮面は便利だ、と思える。最初は、全く別の理由からつけたものなのに、だ。
「では、彼が戻ってからだな、全ては」
 本音を言えば、今すぐにでもその艦を捕縛するためにヴェサリウスを動かしたい。だが、キラがあの艦にとらわれている以上、それは難しい。いや、彼の存在を盾に取られては動きようがない、と言うべきなのか。
 あの男のことだ。
 彼女そっくりに育った《キラ》の命を奪うとは考えられない。しかし、それでも……という疑念はある。
「……救いは……あの方々が、キラの救出に積極的だ、と言うことだけか」
 そして、彼の国もあの子の存在を守るために動き出した。
 いくらあの男でも、彼の国にたてついてまでキラを手元に置こうとするだろうか。
 普通に考えれば答えは《否》だ。
 だが、相手の執着は並ではない。
 今までに、三度もキラはIDを変えている――いや、変えざるを得なかったと言うべきか――にもかかわらず、あの男は《キラ》のそばに手駒をおいていた。そして、自分たちの好きが出るのを待っていたのだろう。
「だが、あの子供が……」
 彼をあの男が手に入れていたとは……とラウは心の中でため息をつく。
「本当に。我が隊に来てくれていれば、これほど心強い存在はなかったかもしれぬのにな」
 今更口にしても仕方がない事実だが、と苦笑を浮かべる。
「隊長」
 そんな彼の耳にアデスの声が届く。
「ニコルが帰還しました。報告は、ブリーフィングルームでお聞きになりますか?」
 この報告に、ラウはかすかに考え込む。
「いや。私の部屋で聞こう。どうせ、彼等にも協力してもらわなければいけないのだ。二度手間になるよりはマシだろう」
 この言葉に、アデスは頷く。
「では、手配を頼む」
 こう言い残すとラウはブリッジを後にした。

「なぁなぁ」
 ブリッジからの連絡で、一足早くラウの執務室に足を踏み入れたアスランに、アウルがからみついてくる。
「まだ、キラ達を助けに行っちゃ、だめなのか?」
 そのまま、彼はこう問いかけてきた。
「キラ……会いたいの」
 その後を続けるかのようにステラがこう呟く声が耳に届く。アウルだけであれば適当にあしらえるのだが……と思いながら、アスランは視線をムウへと向ける。
「そのために、そいつが来たんだろう」
 アスランに救いの手をさしのべてくれたのは、ムウではなく、その脇にいたスティングだった。
「だから、おとなしく話を聞けって」
 さらにムウがこう口にする。
「わかったよ」
「……ムウがそういうなら」
 そうすれば、二人はおとなしく引き下がった。
「で? ラウの奴は?」
 ムウが苦笑を浮かべながらこう問いかけてくる。
「今、いらっしゃると思います」
 ブリッジよりもパイロット控え室からの方がここは近いのだ、とアスランは付け加えた。
「そうか」
 何かを察したかのように、ムウはあっさりと頷く。
「それと……あちらにアスハの姫が合流されたそうです。そう伝えれば、貴方にはおわかりになる、と言うことでしたが?」
 彼の様子を確認して、アスランはさらに言葉を重ねる。
「……そうか……」
 先ほどとは違った意味を滲ませた口調で彼は頷いて見せた。それは、自分が知らない《何か》がその人物と彼等の間にはある、と言うことだろう。
 しかし、それを自分が問いかけてもいいものだろうか。
「アスラン」
 だが、ムウの方はそうでなかなったらしい。
「はい?」
「お前は、カガリ・ユラ・アスハの顔を知っているか?」
 この問いかけに、アスランは素直に首を縦に振る。
「……誰かに似ている、と思ったことは?」
 さらに付け加えられた問いかけに、アスランは一瞬、体をこわばらせた。
 彼女を初めて見たのは、キラと別れて本国に戻ったときだ。
 あのころは、キラも女の子に見えたからかもしれない。髪の色と瞳の色を変えれば、カガリはキラにそっくりだ、と思ったのだ。
 だが、それを口に出してはいけない……と感じていたこともまた事実である。それはどうしてか、はアスラン自身にもわからなかったが。
「まぁ……あの子が合流する……と言うことなら、ウズミ様が真実を告げた、と言うことなんだろうが……」
 そうなれば、きっと、プラントの最高評議会にも話が通っていると言うことか。あるいは、地球連合にも伝わっているかもしれないな、とムウは呟く。
「ムウさん?」
 一体何を……とアスランは思う。
「まぁ、正式に発表されるまではオフレコにしておいてくれ」
 そんなアスランに向かって、ムウは意味ありげな笑みを向ける。
「キラとカガリは……双子だ」
 同じ卵子から誕生した、な……と言う言葉に、アスランは思わずぽかんとした表情で彼を見つめるしかできなかった。