「こいつらも……あの三人と同じなのか!」 ビームライフルで相手の機体を撃つ。 それは間違いなく当たったはずだ。 それなのに、何故か相手の機体は少しも傷ついた様子がない。 「厄介な装甲を……」 ミゲルは忌々しそうに唇をかむ。 カスタムされているとはいえ、自分の愛機は《ジン》だ。どうしても、先日地球軍から奪取してきたそれらとは性能に差がある。 その差を埋めているのが自分の実力だ、ということを否定する気はない。 むしろ、それに自信を持っているというのが本音だ。 しかし、それはジンの武器が相手に通用すれば、の話だろう。 「ったく……厄介なものをつけやがって!」 あの装甲にはビームをたたき込むか、同じ場所に実弾を連続してたたき込まなければいけないのだ。それができないとはいわない。前者はビームを湾曲させるあの厄介な機能が邪魔をし、後者は素早い反応を返すパイロットが阻止している。 「……ったく……」 それなのに、何故、こんなにも自分はわくわくとしているのだろうか。 「楽しいじゃねぇか」 きっと、強い相手を倒すのが快感になっているからかもしれない。そう判断をする。 「俺にだって、意地とプライドはあるんだよ!」 何よりも、自分を信じてこの場を預けてくれたクルーゼの信頼を壊せるか、と思いながら、相手の攻撃を避ける。 しかし、一体どこから切り崩せばいいのか。 どのようなシステムを使えば、あのようにビームを湾曲させられるのだろう。 それがあれば、さらにこの機体は自分の思い通りの動きをさせられるのだろうか。こんな事も考えてしまう。もっとも、そんな場合ではないことも事実だが。 「本当に、こいつらは《ナチュラル》なのかよ!」 何度目になるのかわからないが、やはり攻撃を避けられるのはしゃくに障る。 間違いなく、自分の攻撃は相手に的中しているはずなのに、それが効力を発しないというのがこれほどまでに苛立たしいことだとは思わなかった。 これが、クルーゼを相手にしているときのように圧倒的な実力差があれば割り切れるかもしれない。だが、どう見ても、互角だといえるだろう。 いや。 戦闘経験があるだけ自分の方が上かもしれない。 だから余計に腹立たしいのだ。 「……こいつら!」 関節の隙間をねらえば、ビームでなくても損傷を与えられるのではないだろうか。 少しでも可能性があるのであるならば、実践をしてもかまわないだろう。そう思って、狙いを定めた瞬間だ。 「……何だ?」 いきなり、照明弾が周囲を光で包む。 『こちら、オーブ軍所属クサナギだ! オーブの民間人を引き取りに来た! 大至急、戦闘をやめろ!』 次の瞬間、オープン回線で高圧的な声がこう言ったのがわかった。 「……やめろって言われても、な……」 相手がやめてくれなければこちらとしてはやめるわけにいかないんだが……とミゲルは思わず呟いてしまう。 その時だ。 「……救命ポート?」 いきなり、ガモフから一人乗り用のそれが射出される。同時に、目の前の機体がそれへと向かっていく。 『ミゲル!』 いや、それだけではない。他の二機も同様だ。それをどうするのか……というようにディアッカが問いかけてくる。 「……手を出すな……あるいは、誰かが間違って射出されたのかもしれない」 オーブのお子様が……とミゲルは付け加えた。 だが、違うだろうと心の中で呟く。 あの中の一人が、どうやらブルーコスモス関係者らしい、と聞いていた。だから、そいつが逃げ出したのではないか。そう思うのだ。 「そうは言っても……一応、民間人だしな……」 殺すわけにはいかないだろう。そんなことをした場合、こちらが非難を受けるのはわかりきっていることだ。 「ともかく、艦長に確認してもらうしかないだろうな」 そして、オーブとの交渉にも、彼に表立って御困ってもらった方がいいだろう。 離れていく地球軍の艦を見送りながら、ミゲルはそんなことを考えていた。 「……何で、ザフトの艦から逃げ出した救命ポートをあいつらが拾って逃げるんだ?」 目の前の光景に、カガリはこう呟いてしまう。 「あるいは……スパイがばれて、逃げ出したのかもしれませんよ」 コーディネイターの中にも第一世代には《ブルーコスモス》に協力している者達が多くいるのだ、という。だから……とキサカが口にした。 「何故、だ?」 どうして、コーディネイターが敵である《ブルーコスモス》に協力をするのか、カガリにはわからない。 「半分以上は、逆恨みです」 自分が《コーディネイター》であるが故に差別を受けた。 それは、自分をコーディネイトした両親が悪い。 だが、それ以上に、この世界にコーディネイターが存在するからいけないのだ。 こう考えて、同胞を消し去ろうとする者がいることは否定できない。 いや、それならばまだましな方だ。 ひどいものになると、自分一人が有能であればそれでいい……と考えているらしい。 キサカのこの言葉に、カガリの顔に嫌悪がにじみ出す。 「何なんだ、そいつらは!」 許せるわけがないだろう、と彼女は拳を握りしめる。 「ナチュラルだろうと、コーディネイターだろうと、協力していかなければ、世界は変わらない! それがわからない連中がいるから……」 自分たちは……という言葉をカガリはかろうじて飲み込む。そして、一つ大きく息をはき出した。 「ザフトの艦に連絡を取れ。オーブの暁が、感謝と共に保護された者達を迎えに来た、とな」 その言葉には、先ほどまでの怒りは感じられない。 戦いに介入するのは自分たちの役目ではないのだ。そう考えて、カガリはそれを必死に押さえ込む。 しかし、それがいつまで続くか。彼女にもわからなかった。 |