大きく船体が揺れる。
 思わずシートから転げ落ちそうになったミリアリアの体を、トールが支えてくれた。
「何なの?」
 その腕にすがりつきながら、彼女は思わずこう呟く。
「……戦闘、じゃないかな……」
 先ほど、外が騒がしかったし……何よりも、彼等は自分たちに救命ポートの使い方を説明していったのだ。それは、万が一のことを考えてのことではないか、とカズイが口にする。
「地球軍が……あの艦や奪われたMSを取り戻しに来たって事?」
 だとすれば、それなりの装備を備えてきたと言うことだろう。しかし、この艦は現在、戦力が低下しているのではないか。その理由がわかっているだけに、文句を言うわけにはいかないこともまた事実だ。
 それに彼等は最後まで自分達を守ってくれるはずだし……とミリアリアが心の中で呟く。
 その瞬間だ。
「だったら、さっさとこんなところ、出た方がいいわね」
 フレイがきっぱりとした口調でこう言い切る。
「あんな連中と一緒にいるより、地球軍と一緒の方が安心だわ」
 同じナチュラルだもの……と口にするフレイを、ミリアリアだけではなく他の者達も初めて見る相手のような視線を彼女に向けた。
「フレイ……」
「あの人達は、俺たちにだって親切にしてくれたじゃないか」
 そして、今だって自分たちの安全を優先してくれている。それがわからないのか、と誰もが視線で彼女に問いかけた。
「そんなの、オーブに対するデモンストレーションじゃない! あいつらは、ナチュラルが嫌いだから戦争なんてしているのよ!」
 違うの? と彼女はこう口にする。
「両親は祖父母はナチュラルなのに、それを忘れて戦争している連中をどうして信じられるの?」
 しかも、本気でこんなセリフを口にしているのだ、彼女は。
「でも、キラは別よ。ご両親だって、好きでキラをコーディネイトしたわけじゃないと思うもの」
 フレイは、本気でそう言っているのだろう。  しかし、それなら何故、オーブに住んでいたのだろうか、彼女は。そこまで言い切れるなら、いっそ、地球連合のどこかに住んだ方が良かっただろうに、とも思う。そうすれば、父親とも一緒に暮らせただろうに、とミリアリアは言いたい。
「キラがここにいてくれたら、話は簡単だったのにね」
 この言葉をどう受け止めればいいのだろうか。
「ともかく、いつまでもここにいても意味がないわ。さっさと逃げ出しましょう」
 そんな周囲の者達の気持ちに気づくことなく、フレイは明るい口調で言い切った。
「……一人で行けばいいわ」
 我慢しきれなくなって、ミリアリアは思わずこう言ってしまう。
「ミリィ?」
 信じられないというようにフレイはミリアリアを見つめてくる。
「そうだよな。俺も、ここに残る」
 ミリアリアの肩を抱いていたトールも同意の言葉を口にしてくれた。
「あの人達、嘘は付いていない。だから、俺は、あの人達を信用する」
「……俺も、オーブの船が近くまで来ているなら……そっちで帰りたい」
 トールの言葉の後にカズイもこんなセリフを口にする。
「そうだな。逃げ出す気になれば……まだ、機会はありそうだし……この船に乗っている方が、キラの行方がわかるかもしれないしな」
 さらに、サイまでこう言う。
「サイ……みんなも本気なの?」
 ここに残る方が危険じゃないのか、と彼女は口にした。
「そんなの、わからないわ。地球軍が、ザフトから逃げ出した救命ポートをそのまま見逃してくれるかどうか、わからないもの」
 一番最初の印象が悪かったせいか、ミリアリアにとっての地球軍の印象は悪い。もっとも、例外がいることも間違いない事実ではあるが。
「あんた達、みんな、バカよ!」
 フレイの叫びが、室内に響き渡った。

「……ウザィ……」
 目の前をちょろちょろしている機体を見つめながら、シャニはこう呟いてしまう。
 あれらを好きにしていい、と言われたからこうして攻撃しているのに、どうして墜とせないのだろうか。
 それと同じくらい気にかかることがある。
 こうして自分たちが戦っているのだ。それに気づけば、あちらに乗っている三人が出てこないはずがない。
 それなのに、その気配が全くないのだ。
 と言うことは、あるいは……と思う。
 別段、あの三人がどうなっていたとしてもいい……と心の中で呟く。しかし、それでも数少ない生き残った仲間ではある。だから、できれば生きていてくれた方がいいよな、とも考えるのだ。
 それを確認するにしても、目の前の連中を何とかしないといけないのだろう。
『ったく……ちょろちょろしやがって!』
 同じようなことを考えているのだろうか。
 通信機からクロトの声が飛んできた。
 そして、同じように相手を攻撃しているオルガの動きもかなりいらただしげだ。
「……スティング、と仲、良かったもんな」
 だから、早く彼等の居場所を知りたいと思っているのではないか。シャニはそう判断をする。
「さっさと、墜とされろよ」
 邪魔だから……と思いながら、目の前の機体に照準を合わせようとした。しかし、目にいたいほどのオレンジの機体は、そのタイミングを見計らっているかのように位置をずらすのだ。
「ちっ!」
 この行動が、これほどしゃくに障るものだとは思わなかった。
 というよりも、今までこんな事ができる奴に会ったことがない、と言うことの方が正しいかもしれない。
「さっさと、いなくなれよ!」
 そうすれば、全て終わるのだ。
 自分たちには厄介な条件があるのだし、とも思う。それがなければ、こんなに焦らなくてもいいのに……とも思うのだ。
 これに関しては、どうしてそんな調整をしてくれたのだろうか、と考えてしまう。しかし、今更どうすることができないこともわかっていた。
 だから、さっさと全てを終わらせてしまいたい。その中に、自分の命も含まれていることをシャニは自覚している。
 それがどうしたのか、と思いながら、シャニは再び目の前の機体をロックしようと意識を集中した。