「……艦長……」
 呼びかけに、彼女は視線をそちらに向ける。
「どうした?」
 現在、彼女たちが身につけているのはオーブ軍の軍服だ。そして、この艦の識別コードもオーブのものに偽装してある。
 だから、不審に思われるはずはないのだが……と思いつつ、彼女はこう問いかけた。
「……ザフトからの問いかけです。『オーブの暁はどこにいるか』と」
 この言葉に、彼女は小さく舌打ちをする。
「さすがは、ウズミ・ナラ・アスハ……と言うべきか」
 それともザフトの指揮官が有能なのか。
 どうやら、正式に避難民を迎えに来る艦には、あらかじめ符丁を与えていたらしい。
「アルスター嬢の身分も、ばれていると見た方がいいな」
 だから、警戒されていたのではないか……と判断をする。
「どう、しますか?」
 答えを知らない以上、自分たちの偽装はばれてしまうのではないか。そう告げられて、彼女はかすかに眉を寄せた。
 できれば、あの艦も、そしてフレイの身柄も無事に取り戻したい。
 何よりもあの存在を入手しなければいけないのだ。それが、自分たちに与えられた命令ではある。
「……あの三人に、MSで待機するよう、命じろ」
 問題なのは、彼等の《稼働時間》だろう。
 彼等に使われている《薬》の効果が切れるまでの間に全てを終わらせなければいけないのだ。
「第一戦闘配備! ただし、敵艦を撃破するな」
 彼女の声がブリッジに響き渡った。

「……やはり……地球軍か」
 接近してくる艦を見つめながらゼルマンは呟く。
「パイロット達は?」
 だが、すぐに表情を引き締めるとこう問いかける。
「既に出撃準備を完了しております」
 即座に言葉が返ってきた。
「そうか……」
 それならば、相手の出方にすぐに対処できるな……とゼルマンは頷く。
「ならば、こちらもすぐに対処できるように準備をしておきたまえ……それと、あちらの艦のものにもそう伝えるように」
 地球軍の者達はあてにはできないだろう。しかし――いや、だからこそ、あの艦は下がらせなければいけないと判断をする。
 もっとも、クルーゼのことだ。
 既に何か手を打っているかもしれない。そうも考える。
 だが、それをあてにするわけにはいかない。
 自分たちにできることを行うべきだ。そして、それでもだめだったならば、その時こそ……とゼルマンは心の中で呟く。
「どのような事態が起きようとも、オーブの子供達は守らねばならん。ここを任せてくれた隊長の信頼に応えるためにも」
 この言葉に、ブリッジのクルー達は無言で同意を伝えてきた。

 自分に与えられた機体に乗り込みながら、ディアッカは楽しげな笑いを漏らしていた。
「やっぱりな……」
 もっとも、できれば戦闘を避けたいという気持ちはある。それと同じくらい自分たちがクルーゼなしでどれだけできるかを確認したい、という想いもあるのだ。
「あれらは、撃ってもいいのか?」
 だとすれば、話は楽なんだが……と呟きつつ、ディアッカは手早くOSを立ち上げる。
『用意はできたか?』
 そんな彼の耳に、ミゲルの声が届いた。
「俺はな」
『こちらも、完了している』
 イザークも即座に言葉を返している。
『わかった……ともかく、オーブの船がたどり着く前で、何が何でも民間人を守れ。もちろん、抵抗をするなら敵艦の撃破も許可する、と隊長の伝言だ』
 鬱憤晴らしをしていいぞ……と彼は笑いながら付け加えた。それがどこか面白くないと思えてしまうのは何故なのだろうか。
「わかった」
 しかし、今までと違って何の遠慮もいらないというのは魅力的だ。
「あの地球軍の艦はどうするんだ?」
 守るのか、それとも見捨ててもいいのか。
 一応、これだけは確認しておかなければ困るだろう。そう思って、再度問いかける。
『あの艦はザフトに投降した。だったら、どうすればいいのか、わかるだろうが』
 言外に、傷つけてはいいができるだけ保護しろと言うセリフが伝わってきた。
「了解」
 窮鳥の懐に入るは、仁人の憫れむところという故事もあることだしな。ディアッカはこう呟く。だから、自分たちに投降をし、その監視下に入った彼等の命を守るのも、自分たちの義務だろう。
 第一、自分たちがあいつらを盾にするような卑怯者ではない、と見せつけてやるべきだろうとも思うのだ。  同胞だけではなく、自分たちに協力してくれたり、存在を認めてくれるナチュラルであれば、自分たちは守るのだ。そのことを地球軍の連中に見せつけてやるのも爽快だろう。
 目の前のシグナルがレッドからグリーンへと変わる。
「ディアッカ・エルスマン! バスター、出るぞ!」
 言葉と共に、ディアッカはスロットルを握りしめた。そして、そのまま虚空へ向けて機体を発進させる。  カタパルトを抜けると同時に、機体の背中からケーブルがはずれる。
「来たな!」
 次の瞬間、センサーがunknownと判別した機体を確認した、と表示して来た。それが何であるのか、問いかけなくてもわかるだろう。
『ディアッカ!』
「わかってるって……」
 どの船も守る。
 同時に、自分たちも死なない。
 ディアッカは心の中で改めてこう決意をすると、目の前の機体に向けて攻撃を開始した。