「……何で、あれ、撃墜しちゃだめなんだ?」
 この問いかけに、彼女は小さくため息をつく。
「どちらに、彼女が乗っているかわからないだろう?」
 保護しなければいけない。そう口にする。
「じゃ、あいつを連れてきた後なら、いいのか?」
 別の一人がこう問いかけてきた。
「だめだ。今、オーブと敵対するわけにはいかないのだ」
 第一、あれの撃破は命令にない……と彼女はきっぱりと言い切る。
「……うぜぇ」
「なら、連れてくるなよ」
 残りの二人がこう呟く。その口調に、彼女は本気で頭が痛くなってきた。
「目的は彼女の保護だが、任務は目標の確認、確保だ。もし、目標があの艦に乗っていないときには……お前達の力が必要になる」
 その時は、好きに動け……と彼女は苦虫をかみつぶしたかのような表情で続ける。
「わかった」
 なら、おとなしくしていよう……と付け加えると、それ以上のことは興味がないというように三人は視線を彼女からそらした。
 その様子は、本当に戦いにしか彼等の興味はないのだ、と彼女に教えてくれる。それは、彼等のありようとしては正しいのかもしれない。しかし、自分にはまともとは思えないのだ。
「……あちらの三人は……もう少しマシだったのにな……」
 それとも、彼等も同じだったのだろうか。
 それを彼が変えていったのか。
「会ったときに問いかければいいだけのことか」
 彼女はこう呟くと、これからの行動を他の者と確認するためにその場を離れた。

「……本当に、それは《オーブ》の艦ですか?」
 ゼルマンの言葉に、ミゲルはこう問いかける。
「ミゲル?」
 何故、そのようなことを聞くのか……と彼は視線で問いかけてきた。その理由を、彼が知らないわけがないのに、だ。あるいは試されているのかもしれないな、とミゲルは判断をする。
「隊長とあの方から連盟で連絡がありました。こちらに《ジョージ・アルスター》の娘がいる以上、地球軍――と言うよりはブルーコスモスが動かないわけがないのだ、と。彼女は、何かを知っているはずだから、というのがその理由でした」
 だから、彼女を取り戻しに来るはずだ、とミゲルは付け加える。
「それだけじゃないだろう?」
 脇からイザークが口を挟んできた。
「あいつの存在も、連中にとってはのどから手が出るほど欲しい存在らしいしな」
「あぁ……投降した地球軍の連中がそう言っていたぜ」
 イザークの言葉の後に、ディアッカがフォローするように続ける。
「キラほどのプログラマーは、本国にもいないからな。それに義理の兄君は地球軍の軍人だ……連中にしてみれば、うってつけなんだろう」
 利用するのに、とイザークもまた口にした。
「こうなると、あいつがここにいないことは……不幸中の幸いなのか?」
 その後に続けられた言葉に、ミゲルは頷くことができない。その結果、クルーゼどころか本国でも大騒ぎになっているらしいことを彼は知っているのだ。
「ともかく……オーブには本物である証拠に、ある合い言葉を連絡してあるそうです。それを問いかけて頂けますか?」
 地球軍の偽装であれば、それは知らないはず。
 知らないのであれば、こちらはこちらでそれなりの対応をすればいい。
「確かに、その方が良さそうだな。こちらには、オーブから預かっている子供達がいる。彼等に関しては、何があろうとも守らなければいけない。ザフトの威信にかけても、な」
 コーディネイターだろうとナチュラルだろうと、民間人を守るのは軍人としての当然の義務だ、とゼルマンは口にする。
 そんな彼の言葉にイザーク達は納得できないようだ。だが、ミゲルはそんな彼の意見に賛成だ、と考えている。
「オーブは……何があっても敵に回すわけにいかないんだ」
 こう呟いたミゲルの言葉には、誰もが納得したのだった。

「……まだ、合流地点には着かないのか?」
 少女はそばに控えている男に向かってこう問いかける。
「あと一息です」
 焦っても仕方がない、と彼は言葉を返す。
「わかっている……わかってはいるが……」
 自分のせいで、あの艦に収容されることになった人間がいるのだ。そして、その中の一人は知らなかったとはいえ、自分と深い縁がある存在だという。
「……私は……」
「だからこそです。焦ってはよい結果が出ません」
 自分が何をするべきか。
 そして、これからどうしていきたいか。
 それを決めるのが先決だろう、と男は小さな子供に言い聞かせるように繰り返す。
「貴方は……たとえ、実のご両親が誰であろうと、オーブの獅子の娘です。それは、変えようがない事実ではありませんか? カガリ」
 ウズミもまた、同じように考えているだろう。
 そして、彼の家族もまた、同じように考えているのではないか、と彼は言葉を続ける。
「それもわかっている、キサカ。ただ、私は……彼等に礼を言わなければいけないんだ」
 何においても……とカガリは口にした。
「私がこうしてここにいるのは、あの二人が私をシェルターに押し込んでくれたからだ。でなければ……オーブはもっと厄介な立場に追い込まれていたはずだしな」
 自分の身柄と引き替えに、無理矢理同盟を結ばされていたかもしれない……とカガリは思う。
「……私たちのことは……まだ、わからない。いきなり言われても、どうすればいいのか……」
 それでも、記憶のどこかで自分のすぐそばに誰かがいたような覚えはある。それも、自分と同じような体格の相手だ。
 それが彼だったのだろうか。
 この答えを知りたい、とカガリは考えていた。