キラ達はきちんと食事を食べているだろうか。
 ラクスは大丈夫だろうとは思う。彼女は自分の立場をよく知っている以上、体調を整えることも義務だ、と考えているはずだ。
 連れ去られたもう一人に関しては、知らないから何とも言えない。だが、キラは……元々あまり食事を取る方ではなかったはず。そして、ストレスからよく食事を取らなくなることがあった。
「あのころは、カナードさんがずっとそばにいたし、ムウさん達もそんなキラを心配して少しでも食べさせようとしていたから……」
 一日中何も口にしない、という事はなかったはず。
 だが今はどうなのだろうか。一緒に連れて行かれた少年が、その点を考慮してくれていればいいのだが……とも思う。
 もっとも、彼等が一緒にいれば、と言うことが前提になる。別々であれば……と思ったときだ。
「隣、いいですか?」
 言葉と共に、人影がアスランの視界に入ってくる。
「もちろんだ、ニコル」
 比較的仲がいい彼の存在に、アスランは即座にこう言い返した。そのまま視線を向ければ、彼が何かを考えているらしいことがわかる。
「どうかしたのか?」
 おそらく、それを自分に聞いてもらいたいのだろう。そう判断して、アスランはこう問いかけた。
「ちょっと、わからなくなってきたので……」
 そうすれば、ニコルは小首をかしげながら、言葉をつづり始める。
「僕は、ナチュラルに会ったのは、今回が実質的に初めてですからよくわからないのですが……あの方達はどこか、違うような気がするんです」
 なんて言えばいいのかわからない、と言うように、ニコルはここで一度言葉を切った。
「あの方が、キラさんや顔見知りのアスランを個人的に気にかける……というのであれば納得できるんです。それは、個人的な感情ですし……」
 自分たちの祖父母も、自分たちの両親に対して同じような感情をいだしていたのではないか、と彼は付け加える。
「でも、彼等の場合、コーディネイターとかナチュラルとか言う枷が、まったくないようで」
 相手の人間性を見られているような気がする……とようやく、丁度いい表現を彼は見つけたらしい。
「あの三人はともかく……ムウさんにしてみれば、それは当然のことだと思うぞ」
 一緒にすごしたのだ。種族でいちいち相手を区別しているのは面倒だろう、とアスランは言葉を返す。どちらの種族にも、尊敬できる人間もいれば、軽蔑の対象にもならない相手もいるだろう、と。
 四種類以上の条件を組み合わせて相手に対する態度を決めるよりも、一番厄介な枷を取り払ってしまった方が楽ではないか。
「俺も同じようなことを考えて、質問したら……ムウさんは笑ってこう答えてくれたぞ」
 そんなムウの部下だ。
 あの三人が影響を受けても当然ではないか……とアスランはさらに付け加える。
「何よりも……あの三人はキラと一緒にいたからな」
 そんなムウ達の教えを一番身につけているのは彼だろう。そんなキラを見て、ナチュラルだろうと誰だろうと、嫌悪する方が難しいのではないか。アスランはそう思う。
「そのような方なのですか?」
「うちの父が気に入った相手だぞ」
 ニコルの言葉に、アスランはこう言い返す。
「……あのザラ閣下が……」
 一体、ニコルはパトリックがどのような存在だと考えていたのだろうか。呆然とした口調でこう呟く。
「あいつは、俺が《ザラ》でも気にしないで付き合ってくれた数少ない相手だからな。だから、絶対に取り戻す」
 だから、それまでは元気で待っていて欲しい。アスランは心の中でこう付け加えた。

「……それは、カナードさんが?」
 キラの手の中にあるものを見て、シンは唇の動きだけでこう問いかける。それにキラは頷いて見せた。
「で?」
「……後で、また来るって……」
 ここに残るよりは、一度退いた方が目立たないのだ、と言ったらしい。その言葉にシンは驚きを隠せない。
 入り込むだけならば、自分でも何とかなるかもしれない。
 しかし――言葉は悪いが――再度逃げ出してまた戻ってくるなんて事は不可能だ。
 だが、本人はもちろん、キラもそれができない、と考えていないらしい。それだけの信頼感が彼等の間にはある、と言うことなのか。
 それはうらやましいな……とシンは思う。
「それは?」
「……一応、トイレとシャワールームには監視装置がなかったでしょ? そのほかに、兄さんがここの一角の監視装置をごまかしてくれているから……その間に、ちょっと反撃させてもらおうかと思って」
 にっこりと微笑みながら、キラはとんでもないセリフを口にしてくれる。
「わかりました。俺にできることなら、協力させて頂きます」
 もっとも、シンだって同じ気持ちだ。だから、自分にできることなら何でもしよう……という気持ちになってしまう。
「うん。フォロー、お願い」
 キラは即座にこう言い返してくれる。
 自分のプログラミングの力は、彼の足下にも及ばない。そして、カナードにも同じだろう。それでも、キラはこう言ってくれる。
 だから、絶対に自分はキラを守るのだ。
 シンは決意を新たにする。
「……じゃ、ちゃんとご飯、食べてください……お願いですから」
 でないと、いざというときに動けないだろう、とシンは懇願する。まずはこれから何とかしなければいけない、と思ったのだ。
「……気をつける……」
 キラもそれはまずいと思ったのか――それともカナードから同じ事を言われたのかもしれない、とその表情から判断する――素直に頷いてくれた。