「隊長、お呼びでしょうか?」
 アスランは内部に向かって入室の許可を求める。そうすれば、すぐにドアのロックがはずれた。
「悪いな……用があるのは、俺だ」
 中に足を踏み入れると同時に、ムウがこう声をかけてくる。その周囲には、あの三人がいつものようにそれぞれ好きな体勢でくつろいでいた。
「何でしょうか?」
 そんな三人に一斉に視線を向けられて、アスランは一瞬体をこわばらせる。だが、それだからと三人に嫌悪を示すようなことはない。ムウが信頼して、キラが友人扱いしていたのであれば、どのような存在でもかまわないと思うからだ。
 そんなアスランの気持ちが伝わったのだろうか。
 あるいは、アスランの存在に興味を失ったのかもしれない。
 三人は再びくつろぎ始める。
「本来なら、ラウに頼むべきなんだろうが……今、忙しいようだからな」
 かといって、他の人間に頼める内容ではない……という言葉に、アスランはかすかに眉を寄せる。
「ちょっと、メールを送って欲しいんだ」
 根回しをしたくてね……とムウは口にする。
「……どちらに、とお聞きしてかまいませんか?」
 さすがに地球軍ではまずいだろう……と心の中で呟く。
「オーブと……カナードだ」
 しかし、彼の口から出たのは当然といえる相手の名前だった。
「まぁ、オーブの反応次第では、カナードに直接連絡を取らなくてもすむはずなんだが……」
 どちらにしても、連絡をしてみないと判断が付かない……と彼は口にする。
「そう言うことでしたら……ですが、俺の名前でいいのですか?」
 あちらには通用するのか、とアスランは問いかけた。自分が《ザラ》である以上、不審がられる可能性の方が大きいのではないか、とも思うのだ。
「直接、本部に連絡を入れるわけではないし……お前のことも知っている相手だから大丈夫だろう」
 この言葉に、アスランは首をかしげる。そんな人物がいただろうか、と思ったのだ。
「そんな表情をするな。マルキオ様だ」
 直接会ったことはないはずだが、話だけは耳に届いているはずだとムウは口にする。だから、アスラン名義で連絡を入れても大丈夫だろう、と彼は付け加えた。
「そうおっしゃるのでしたら、信用します」
 自分の名前でそちらに連絡を取ろう、とアスランは頷いてみせる。
「頼む。気になることもあるんでな」
 ムウはこう言って眉を寄せる。
「本当は……あいつらにも連絡が取れればいいんだが……」
「艦長達?」
 ムウの言葉の補足をするように、ステラがこう問いかけた。
「あっちの三人が動いていたら厄介だから、だろう?」
 そんな彼女に向かってスティングがこんな言葉を返している。しかし、アスランにその言葉が引っかかった。
「あっちの三人?」
 誰のことだ、と思わずこう問いかけてしまう。
「俺らの他にも、似たような連中がいるってだけだ」
 即座にスティングが言葉を返してくる。
「そいつらが動いたときのことを、ムウが心配しているだけのことだろ」
 確かに、目の前の三人と同レベルなのだとすれば、かなり厄介だ。現在二分されている自分たちの戦力ではかなり厳しいかもしれない。
 しかし、警告があればあちらの連中も対処のしようがあるだろう。そう判断する。
「……ともかく、オーブへの連絡はどのようにすればいいのですか?」
 そして、必要であればついでにガモフへ同時に連絡をしよう。そう判断して、アスランは彼等に向かってこう問いかけた。

 ひょっとして、どこかに盗聴用の装置でも付いているのだろうか。後で確認してみなければいけないな……とシンは心の中で呟く。
「いいのか? 逃げ出すかもしれないぞ」
 だからだろうか。ついつい皮肉げな口調でこう言ってしまったのは。
「だから、俺がついて行くんだろう」
 お前達には不本意かもしれないが……とレイは口にする。
「もっとも、逃げ出してもすぐに捕まるだろうが。この艦に乗っているのは、ほとんどが訓練された軍人だ」
 彼等の目を盗むのは不可能だと言っていい、と彼はさらに付け加えた。
「どうだかな」
 どんなに訓練された連中でも、いや、それだからこそ逆に隙ができるものだ、と言うことをシンは知っている。もっとも、キラがいる以上、そんな無謀なことはしないが。
「で? いつまでくだらない話を聞いていればいいんだ、俺たちは」
「シン君」
 今まで黙って聞いていたキラがシンのこの言葉に、ストップをかける。
「俺は、こいつの話を聞きたくないんです。それに、そのくらいの主張はしてもいいと、思いません?」
 誰のせいで閉じこめられているんだ、とシンは付け加えれば、レイが辛そうに視線をそらした。
「……文句は、彼に命令した人に言った方がいいんじゃないの。レイ君に当たっても、改善されるわけじゃないし」
 疲れるだけだ……という言葉は一体、どう判断すればいいのだろうか。シンにもわからない。
 しかし、キラが自分たちの言い争いを快く思っていないらしいことは理解できた。
「わかりました」
 だから、今はこれ以上、何も言わないことにする。
「……行くなら、シン君だけで行ってきてくれるかな?」
 しかし、次の瞬間口に出されたセリフに、シンだけではなくレイも驚く。
「キラさん?」
「どうか、したのですか?」
 慌てたようにこう問いかければ、キラは困ったような微笑みを浮かべる。
「ちょっと……気疲れか、な。眠れば治ると思うんだけど……」
 少しゆっくりしたいのだ……とキラは言外に告げてきた。それはあるいは、ストレスのせいではないか、とも思う。
「では、ドクターに……」
「……ごめん、知らない人には、会いたくないんだ……」
 レイの言葉を、キラは即座に否定する。
「キラさん、人見知り、しますものね」
 実は、自分が側にいるせいで彼にストレスを与えていたのだろうか、自分は。そんなこともシンは考えてしまう。
「少しだけでいいから、一人にしてくれるかな?」
 それを裏付けるかのように、キラはこう告げる。
「多分、シン君が戻ってきたときには、もう治っていると思うから」
 だから……と言って微笑まれてしまえば、自分に逆らえるはずがない。仕方はなく、シンは小さく頷いて見せた。