「一体、何がどうなっているんだ!」
 事情がわからないのが気に入らない、とイザークが叫ぶ。
「落ち着けよ」
 そんな彼を腐れ縁のディアッカがなだめている。
「それを知りたいのは、俺も一緒だがな」
 こう言いながら、彼は視線を部屋の一角へと向けた。そこにはヘリオポリスの学生達が集められている。もちろん、そこにはあの特徴的な赤い髪の少女もいた。
「ただ、隊長には何かお考えがあるんだろう。あるいは……何か起きると思っているとかな」
 だから、自分たちをこちらに残したのだろう、とディアッカは続ける。
「それでなくても、お前らは《最高評議会議員》の息子だからな」
 さらに口を挟んできたのはミゲルだ。
「何かあったときに、外交的にその肩書きが威力ある、と」
 お前らは嬉しくないかもしれないがな……と彼は言葉を続けた。
「……確かに、あまり嬉しくないな……」
 だが、その場になったら、それなりの行動を取るのだろう……とディアッカは心の中で呟く。その程度のことができなくてどうする……とも思うのだ。
「それに、内密だがな……」
 不意にミゲルが声を潜めるとこう囁いてきた。
「隊長は何かある、と断言していたぞ。ついでに、地球軍のあいつもな」
 ブルーコスモスが乗り込んでくる可能性がある、と考えているらしい……と彼は囁く。
「マジ?」
「何故、そんなことを……」
 クルーゼの事だ。何の確証もなくそんなセリフを口にするはずがない。相手が、たとえ《ミゲル》でもだ。
「あの赤毛……ジョージ・アルスターの娘だとさ」
 理由があるとすれば、それだろう……とミゲルはさらに声を潜めつつ告げてくる。
「なるほどな。それなら納得」
 そして、自分たちでも同じ判断を下すだろう。
 自分とイザークを残した理由も、それで納得できる……とディアッカは頷く。そして、アスランとニコルではなかったのは、彼等では押しが弱いと判断されたからか。
「まぁ、一番いいのは何事もなく彼等をオーブに返せることだが、な」
 そうすれば、自分たちもすぐにクルーゼ達の後を追えるのだ。そう、ミゲルは笑う。
「あっちの方が面白そうな事態になってる気がするんだよな」
 このセリフも何なのか。というよりも、これが自分たちの代表格でいいのか。
 まぁ、ゼルマンがいるから馬鹿なことにはならないと思いたい、と心の中で呟いてしまうディアッカだった。

「ようやく、お顔を見せてくださいましたわね」
 ラクスは厳しい口調で相手に向かってこう言葉を投げつけた。
「申し訳ありません、ラクス様」
 口ではこう告げるものの、少しもそう思っている気配は見受けられない。そんな彼の態度は、プラント本国では見られなかったものだ。
 それとも、あちらで見せていた態度の方が偽りだったのか。
 真実が何であるのかはわからない。
 しかし、今現在もはっきりとしている事実が一つだけある。
「そう思われるなら、今すぐ、キラ様とシン様をオーブにお返しなさい!」
 本人の意志を無視してこのような暴挙に出ることは、たとえどのような理由があろうとも許されるものではない、とラクスはさらに付け加えた。
「そう言うわけにはいかないのですよ、ラクス様」
 しかし、デュランダルは即座にこう言い返してくる。
「少なくとも、キラ・ヤマトにはこの場にいてもらわなければなりません……真実のために」
 この言葉に、ラクスはさらにきつい視線をデュランダルへと向けた。
「彼の兄弟達が、彼に真実を隠していたのは仕方がないことなのでしょうが……それでは私が困るのですよ」
 隠されていた真実だけが自分を支えていたのだ、と彼は微笑む。
「それに、これから告げられる真実は、コーディネイター全ての未来に関わってくるのです」
 そうである以上、キラを解放するわけにはいかないのだ、と付け加える言葉が、一見、正しいようには感じられる。だが、すぐにラクスは思い直した。
「それであるのなら、なおさら、キラ様とご兄弟の許可を取られるべきではありませんの?」
 地球軍の艦の中で見た、キラとムウの様子。
 あれを見れば、二人がそれぞれ属す種族が違うとは思えない。それだけ自然な愛情だった。そして、それこそが世界のあるべき姿だったのではないか、とラクスは思う。
 たとえ、彼等がキラに何を隠していようと、それはそうしなければいけないと判断したからだろう。
 だからこそ、真実を伝える場にキラだけではなく彼の存在もなければいけないのだ、とラクスは考える。
「キラ様を、今まで慈しみ、支えてこられたのはお兄様方でしょう。少なくとも、貴方ではありません」
 そして、キラが必要としているのもだ。
「……それはどうでしょうね」
 しかし、デュランダルは小さなため息をつく。
「少なくとも、私にはその権利があるのですよ、ラクス様」
 内容までは、今口に出すことはできないが……と付け加える。
「デュランダル様!」
 そんな彼に対し、ラクスがさらに何かを言葉を投げつけようとしたときだ。
「デュランダル様!」
 外部から声がかけられる。
「どうかしたのかね? 今、ラクス様と話をしていたのだが……」
 気に入らないというように、デュランダルが言葉を返す。
「本国から、緊急通信です……クライン閣下とザラ委員長が、大至急話をしたいと……」
 この艦は、元々ザフトのものだ。そうである以上、この二人の呼び出しは無視できないものなのだろう。それはデュランダルにしても例外ではないらしい。
「仕方がないな」
 小さく、彼はため息をつく。
「ラクス様、そう言うことですので……本来であれば、別の話をさせて頂きたかったのですが……残念です」
 すぐに戻ってくるつもりだが……と彼は笑う。
「そうですわね。私としても、キラ様達にお会いしたかったのですけど」
 その許可をもらえずに残念だ、とラクスは皮肉のように言い返す。
「申し訳ありませんが、それもしばらくお待ち頂きましょう」
 すぐですよ……とデュランダルは言い残すときびすを返した。
 そのまま部屋を後にする彼をラクスはにらみ付ける。
「でしたら、私も勝手にさせて頂きますわ」
 そしてこう呟いた。