はっきり言って、居心地が悪い。 どういう理由で連れてこられたか、というのがわからない……と言うことももちろん理由の一つではある。それ以上に、自分が置かれている環境も居心地が悪い理由だ。 「大丈夫ですか、キラさん」 そんなキラに向かって、シンが声をかけてくる。 絶対に逃げられないと思っているのか。既に彼のいましめは説かれていた。その事実だけでもいいのか、とキラは心の中で呟く。 「大丈夫だけど……落ち着かなくて……」 ここは……とキラは口にする。 「そうですね。しっかりとロックされているし……ハッキング防止のためか、端末もありませんしね」 そんなものをキラに与えればどうなるのか、レイならわかっているはずだ。だからだろう。この部屋の中には外部の様子を知るための端末すらないのだ。 「でも、この部屋って、ずいぶんいい待遇の部屋ですよね?」 周囲を見回していたシンがこう呟く。 「そうだね。アークエンジェルで言うと、高級士官クラスの部屋かな?」 もっとも、それよりも待遇はいい。 設備の面はともかく、広さと周囲にさりげなく配置された緑などと言った面ではこちらの艦の方が上かもしれない、とキラは思う。 だからこそ、理由がわからないのだ。 本来であれば《ラクス》の方がこの部屋を使うべきではないのか。 自分よりも彼女の方がザフトの中は重要視されるべき存在だ、とキラは思う。 「でも、理由がわからないから、余計に気持ち悪いと思うんだよね」 「そうですね」 どうやら、シンも同じ気持ちだったらしい。即座に頷いている。 「どこに向かっているのか、俺たちに何をさせたいのか……全然わかりませんしね」 プラント本国に向かっていたのであれば、あそこにいるラウが何とかしてくれたかもしれない。 いや。きっと何とかしてくれただろう。ムウにしても彼に連絡を取ってくれたはずだろうし、それにあまりあてにしてはいけないのだろうがパトリックもいるから、とキラは思う。 だが、どこに向かっているのかわからない艦の中に監禁されている状況であれば、それは難しいのではないか。 せめて自力で情報を得ようとしても、そのための道具を与えられていない以上不可能だ。 「ったく……責任とって顔を出せよな」 文句の一つや二つ、諦めて聞きに来ればいいのに……とシンが呟く。 それが誰のことなのか、キラにもわかる。 「……レイ君にも……きっと、しなきゃないことがあるんだよ」 彼に対しては複雑な感情の方が強い。しかし、だからといって、彼をせめる気にならないのは、きっと、彼が《軍人》だからだろう。 軍人は命じられたことをしなければいけない。 それがどんなに嫌なことでもだ。 以前、キラの問いかけにムウがこう答えてくれた。ザフトでも同じなのではないか、とキラは思うのだ。 「そうかもしれませんけど……でも、一度も顔を見せないっていうのは変じゃないですか」 せめて、弁明に来ればいいのに……と口にするのは、きっと、彼もレイを好きだったからではないだろうか。 「……そうだね……話をしたいかな、彼と……」 彼の本音が知りたい。 キラはそう考えていた。 「……あれか……」 モニターに映し出された艦を見て、カナードは口の中で呟く。 キラの保護をする事と引き替えに、パトリックはある条件を出してきた。それは、プラント――コーディネイターの現状を考えれば仕方がないことだろう、とカナードも思う。 それにそれは既におぼろげにしか思い出せないあの人達の願いでもあったはずだし……とそう判断したのだ。 もっとも、あの二人に相談しなかったことに関しては、後で怒られるかもしれないな……と心の中で呟く。だが、マルキオがいいと言ったのだからかまわないだろう……と考えたことも事実だ。 しかし、あの日以来、あの地に誰も足を踏み入れていないはず。そう聞いたから、自分がした調べに来たのだ。 だが、何故かこの地には人がいた気配がある。 ジャンク屋なのか、と思ってギルドに問い合わせたが『違う』という答えが返ってきた。それならば誰が……と思いつつも必要なデーターを確保すると、プラントへと戻ろうとしたのだ。 その時である。 パトリックから、キラが乗ったシャトルを収容したザフトの艦がこちらに向かっている、と連絡があったのは。 「タイミングがいいのか悪いのか……どちらだろうな」 自分がいるときにあの艦がこちらに来たことは、とカナードは呟く。 「……ラウ兄さん達には連絡を取ったし、ムウ兄さんと合流したって言うから、あちらの方は万全だろうが……」 問題はこちらだな……とカナードは小さな声で呟く。 「一応、あそこには侵入できないように処置してきたが……」 キラが手を出せばあっさりと突破できるだろう。自分よりもキラの方がプログラミングに関しては上なのだ。そして、困ったことにキラに言うことを聞かせるための餌もあるのだ。 かといって、自分が艦内に侵入することも難しいだろう。 残る方法は、ラウ達が早く来てくれることだけか……とカナードはため息をつく。 「二人とも……頼むぞ」 自分が自分を抑えていられるうちに……と呟く声はカナード本人にしか届かなかった。 「どうやら、ここにいることがばれていたようだね」 報告を耳にしたデュランダルは小さくため息をつく。 「……ギル……」 そんな彼の耳に、不安そうなレイの声が届いた。 「あぁ、何も心配することはないよ」 忠実な少年に向けてデュランダルは柔らかな微笑みを作る。 「ある意味、予想していたことだ。ただ、できれば彼に真実を伝えるのは……あの場所で、と思っていただけなのだがね」 無理なようであれば、他の場所でもかまわないことだし……と彼は口にした。それよりも、今この場に《キラ》がいてくれることの方が重要だろう、とも告げる。 「そう言えば、彼等は今、どうしているかな?」 「……キラさん達は部屋に……ラクス嬢は、貴方に会わせろと騒いでいるそうです」 この答えに、デュランダルはかすかに眉を寄せた。自分が知っている《ラクス・クライン》のイメージと微妙に異なっているように思えるのだ。 しかし、彼女を無視することはできないだろう。 「仕方がない……まずは、ラクス嬢にお会いするか」 キラ達に会うのはその後でいいだろう、とデュランダルは判断する。本音を言えば、先にキラに会いたいのだが、その瞬間、真実を口にしかねないのだ。そして、彼がそれを信じるかというと答えは『否』だろう。 そう考えれば、動かし堅い証拠がある場所で……と思ったのだ。 「なかなか、うまくいかないものだな」 小さなため息と共にこう呟く。このずれが、決定的なミスへとつながらなければいいのだが……と彼は心の中だけで付け加えていた。 |