彼が手配した以外のザフト艦に見つかるのはまずい。そのためにレイの精神はぎりぎりまで張りつめていた。 だからだろうか。 彼――デュランダルからの通信が入った瞬間、安堵のため息をついてしまったのは。 『今、そちらに向かっている。すぐに合流できるよ』 この言葉に、レイは思わず大きく頷き返してしまった。 『疲れているようだね。もう少しだ』 すぐに会えるよ、という言葉に思わず笑みを浮かべてしまう自分に、レイは内心あきれている。それでも、目の前の人物は自分にとって全てだ、と言っていいのだ。 「わかっています、ギル……予定外の人物もいますが……」 『君が必要と判断したのだろう? なら、かまわないよ』 君の判断に自分は信頼を置いているからね……と微笑んでくれる彼に、レイは心の中に喜びが広がっていくのを感じていた。それは、ヘリオポリスでキラにほめられたときの気持ちとよく似ている。しかし、彼は二度と自分にそのような声をかけてくれないのではないか、とも思う。それが辛い、とも。 『大丈夫だよ、レイ。私がきちんと説明をするから』 そんな彼の内心を読み取ったのだろうか。デュランダルがこう声をかけてくる。 『だから君は、無事にここまで彼等を連れてくることだけを考えたまえ。いいね?』 「はい、ギル」 彼がこう言ってくれるなら大丈夫だ。 完全に元通りにはならないかもしれないが、自分がキラの側に行くことは許されるのではないか。 それだけでも十分だ……と思うのは、自分が彼等を《裏切った》という自覚があるからかもしれない。 だが、それでも《キラ》に対する思いも消せないのだ。 それはきっと、デュランダルが折々にふれて話してくれた彼の存在に対する憧憬と、それ以上に一緒にいた時間で抱いた好意。この二つが自分の中で《キラ》という存在を確固たるものとして存在づけたのだろう。 だから、デュランダルに嫌われるのと同じくらい、キラに嫌われるのは辛い。そう思ってしまう。 「では、ランデブーポイントで」 しかし、それを今口にするわけにはいかないだろう。 彼と合流してからなら、あるいは……と考える。言いつけ通り――多少予定外の自体はあったが――キラを保護できたのだ。きっとほめてくれるに決まっている。 彼の言葉を耳にできれば、きっと、少しは罪悪感が薄れるのではないか。 レイはそう考えると、シャトルの向きを変えた。 「……デュランダルが出航した?」 その報告に、パトリックは珍しく目を見開く。 だが、すぐにそれが《キラ》と《ラクス》を乗せたシャトルと合流するためなのではないか、と推測をする。しかし、一体どのような名目があれば、この時期に出港を許可されたのだろうか。こうも考えるのだ。 「目的地はわかるか?」 この問いかけの答えを既に用意していたのだろう。 「L―4です」 即座に答えが返ってくる。 しかし、それはパトリックの懸念を深めるものだった。 「L―4……メンデルか……」 そこで過去に何が行われていたか。それを知っているからこそ、パトリックの懸念は深まる。 「わかった……クルーゼを呼び出せ」 だが、そこから先は《自分》が関わるべき事ではない。できれば、息子にも関わらせたくはないのだが、彼がそれを拒むだろう。願わくば、真実を知っても彼らの友情が壊れなければ……と考える。 「無用な心配だな」 だが、すぐにこう思い直す。自分たちの息子であれば、その程度ぐらいの障害であきらめるはずがない、と信じているからだ。 「だが……彼には辛いだけかもしれぬな」 自分たちには福音とも言える事実。しかし、それを施された本人にはどうなのだろうか。 同時に、今までの世界を覆されてしまう痛みは、どれほどのものなのか。 「完全には理解できぬとも、共感はできよう」 あの日の経験を思い出せば、だ。 「同時に、どのようなことがあっても失われぬ絆があるのだ、と気づいて欲しいものだな」 こう呟いたときだ。 「ヴェサリウスとの回線、開きました」 先ほどの兵士がこう報告をしてくる。それにパトリックは重々しい仕草で頷いて見せた。 「L―4か……」 厄介な場所に……とムウは呟く。 「あの設備が残っているのか」 だとすれば、キラにはショックだろう。できれば、その前に愛おしい《弟》を取り戻したい……とも思う。 「ムウ?」 「……どうかしたのか、そこが」 「キラがいるのか?」 ラウが手を回してくれたのだろう。三人組は今、彼の元にいる。その事実がありがたい、とも思う。 「キラが向かっている……そして、あそこは、俺たちがガキの頃に住んでいて、キラが生まれた場所だ」 あまり嬉しくない思い出もあるがな……とムウは口にする。それを三人は興味深そうに聞いていた。 「ただ……あそこは、今は破壊されているはずだ」 自分たちも、脱出が遅れれば死んでいたかもしれない、と付け加えればステラが体をこわばらせる。 「死ぬの?」 キラ……と口にしながら、彼女はムウに体をすり寄せてきた。 あるいは、自分が一緒にいたのにキラ達が連れ去られてしまったことに責任を感じているのだろうか。 「大丈夫だ……お前らがちゃんと協力してくれれば、キラを取り戻せる」 そして、残りの二人もな……とムウは笑いながら彼女の髪をなでてやった。 「協力、する」 「当たり前だろう!」 「キラも、シンも……俺たちを普通の《人間》として扱ってくれたからな」 自分を必要としてくれる相手がいるのなら、その相手のために戦いたい。三人は異口同音にこう告げる。 「そうしてくれ……俺だけじゃ無理だからな」 あてにしているぞ、とムウは付け加えた。そうすれば、三人は力強く頷いてみせる。 「そうしたら、ずっと、一緒にいられる?」 「あぁ……約束してやる」 この答えに、三人は満足そうに微笑んで見せた。 |