タイミングが計れない。
 一体、いつ、突入すればいいのだろうか。
「待っているだけ……というのは辛いもだな……」
 自分も、あの場で戦闘に加わりたい。その方が彼等に近づいているような気になるのだ。
 だが、それではあの艦を無傷で捕縛することはできない。
 つまり、それはキラを危険にさらすと言うことでもあるだろう。
 だから必死に自分を押させながら目の前の光景を見つめていた。
 それにしても、本当にあれらのMSを操っているのは《ナチュラル》なのだろうか。使っているOSが自分たちが奪取したものと違うのだろうか。それとも、別の理由からなのか。
「キラが……強要されたとか……」
 そう言えば、あの時、キラの他にもう一人側にいたような気がする。そして、今は《ラクス》が側にいるはずだ。
 彼等の安全を盾にされてしまえば、キラには逆らえないのではないか。
 そんなことも考えてしまう。
『アスラン』
 その時だ。アスランの耳に待ちわびた声が届く。
「了解」
 ともかく、自分が失敗さえしなければキラを取り戻すことができる。
 だから、今はなすべき事だけを考えよう。
 そうすることが、全ての早道に決まっているのだ。
 アスランは自分に言い聞かせるように何度も繰り返す。
「アスラン・ザラ、行く!」
 言葉と共に、相手に悟られないよう今まで最低限の機能以外は停止していた。それを一息に立ち上がらせる。
 そのまま、アスランはイージスという名の機体をまっすぐに地球軍の戦艦へと向けた。その途中でMS形態からMA形態に変形させる。その方が機体の速度が上がるからだ。
「……くっ……」
 強行急襲型とでも言うのだろうか。
 素早く近づき、一撃で相手を沈める。
 その目的のために設計されたとわかる機体が、今はとてもありがたい。
「キラ……」
 しかし、全身を包むGだけは予想以上だ、とアスランは心の中で呟く。鍛え上げられた体にもかかわらず、意識が遠のくような感覚に襲われるのだ。
「俺がかならず……」
 助けてやるから……とアスランは口にすることで、かろうじて遠のきかけた意識を現実につなぎ止める。
 この先に待っているのは、キラの笑顔だ。
 そう考えるだけでどのような事にも耐えられる。
 アスランはそう考えていた。

「もう、こいつら、邪魔!」
 アウルは思わず癇癪を起こしたくなってしまう。
『アウル』
 それを察したのだろう。スティングが通信機越しに声をかけてくる。自分にだって、そんな余裕があるわけはないのに、と考えれば怒りの矛先が彼に向けられそうになった。
『キラが待っているんだぞ』
 しかし、この一言でその怒りはあっさりと霧散してしまう。
『ムウにほめてもらって、キラに「お帰り」って言ってもらわなきゃないんだろう、俺たちは』
 だから、冷静になれ……と彼はさらに言葉を重ねる。
「わかっている!」
 何だかんだ言っても、ステラはもちろん、スティングもキラが気に入っているらしい。その理由は、間違いなく自分と同じだろう。
 自分たちを《人間》として扱ってくれる。
 いや、それだけではない。
 キラはムウと同じように、他の人間と分け隔てなく好意を向けてくれるのだ。
 誰かを守りたい、とアウルは初めて感じた。そして、それを実行に移すだけの力を自分が持っていることに感謝したことも事実。
 それなのに、それをこいつらは邪魔してくれる。
 だが、と思う。
「こいつら……何で、俺らを殺そうとしないわけ?」
 冷静になってみて、初めてわかる事実にアウルは首をかしげたくなる。
『さぁな』
 自分にもわからない、とスティングは言葉を返してきた。
『これが、艦の方ならわかるけどな』
 しかし、彼はこう付け加える。
「スティング?」
『キラ達が乗り込んでいることに気づいているんだろう。でなければ、あいつか』
 先日保護されてきたプラントの少女、とスティングは口にした。
「そう言うところか」
 確かに、あれは《コーディネイター》で自分の敵だが、ムウは民間人まで巻き込むのは違う、と言っている。そして、キラも彼と一緒に保護してきた奴も《コーディネイター》だが、自分にとっては好ましいと言える存在だ。
 だから、艦を落とそうとしない気持ちはわからないわけではない。
 しかし自分たちは別だろう。
 一体どうしてなのか、とアウルは考える。だが、答えなんて出てこないのだ。
「あぁ、もう!」
 そんなことを考えている暇があれば、相手を撃墜することを考えよう。そして、キラの笑顔を見に戻るのだ。
「それがいいよな」
 うん、とアウルは自分の言葉に頷く。
「ついでに、キラと一緒に飯、食おう」
 そうすれば、食堂のまずい食事もうまく感じられるのではないだろうか。
 こう考えると、意識を目の前の機体に向けた。
 その瞬間だ。
「なんだ、あれ……何で、脱出艇が!」
 アウルは目の端を通り抜けていった物体に信じられないというように叫ぶ。
『キラ!』
 その後をムウの言葉が追いかけた。

「……何なんだ、あのシャトルは……」
 それにアスランも気づいていた。しかし、それを追いかけることは自分の役目ではない、と思っていたことも事実。
 しかし、それを後悔することになるのだ。
 だが、今は目の前の任務を遂行するだけで精一杯だった。