「どうしたの、二人とも……」 ドアが開いた……と思った瞬間、視界に飛び込んできた二人の姿にキラは目を丸くした。その隣で、ステラが身に纏った雰囲気を豹変させる。 「戦闘中、なのに」 何故ここにいるのか……と、彼女は二人をにらみ付けた。 「ドアが、壊れて……んで……」 なんと言えばいいのか、と言うようにシンが言葉を口にし始める。 「他の場所はロックがかけられていたが、ここだけは違ったのでな」 空き部屋かと思ったのだ、とレイが付け加えた。しかし、その言葉を素直に信じられないのはどうしてなのだろうか。 というよりも、目の前にいるのは本当に自分が知っている《レイ・ザ・バレル》という少年なのだろうか、とキラは思えるのだ。むしろ、今彼が身に纏っている雰囲気は、ムウ達のような《軍人》に近いと感じられる。 しかし、彼は自分と同じカレッジの学生だったはず。 それとも……と思ったときだ。 「部屋に戻る……でないと、捕まる。そうしたら、キラが悲しむ」 ステラがこう言って彼等のそばに歩み寄っていく。 「一緒に行くから」 だから、部屋に戻って欲しい……と彼女独特のたどたどしい口調で声をかけていた。 「終わるまで、ここにいちゃだめか?」 そんなステラに、シンはお願いをするようにこう問いかける。 「キラさんの側にいれば、安心できるんだけど……」 後で怒られるのは覚悟しているから、と彼は付け加えた。その言葉に、ステラはどうしようかと言うように小首をかしげてみせる。 それでも答えは見つけられなかったのだろう。助けを求めるかのようにキラへと視線を向けてきた。 「キラも、その方がいい?」 それなら、許可出すけど……と彼女はキラに問いかけてくる。 「ステラが処罰されない?」 自分としては、確かに彼等にも側にいてもらった方が安心できるというのが本音だ。しかし、そのせいで彼女が処罰されてしまうのであれば我慢するしかない、とキラは思う。 「そうですわね。ステラ様が怒られるのは悲しいですわ」 ラクスもこう言って微笑む。その口調にやはり何か別の意味を感じるような気がするのはキラの錯覚か。 「……多分、ムウは怒らないけど……」 他の人が怒るかもしれない……と彼女が呟くのを耳にして、キラは決意を固めた。 「そう言うことだから、戻った方がいいと思うよ」 ね、とできるだけ穏やかに、だがきっぱりと口にする。 「僕は大丈夫だから。危ないところを確認しに来てくれて、ありがとうね」 だから、戻って……とキラはさらに言葉を重ねた。 「そう言うわけには……いかないのですよ、キラさん」 予想通り、というのだろうか。 それとも『何故』と言うべきなのか。 「レイ?」 何を、とシンも彼へと視線を向ける。 いや、彼だけではない。ステラもまた彼へと向き直った。そして、そのまま腰のナイフを抜き去ろうとする。 しかし、その時にはもう、レイは行動を起こしていた。 彼の手刀がステラの後頭部を襲う。その的確な攻撃に、彼女の体が崩れ落ちる。 「ステラ!」 軽々とレイは彼女の体を抱き留めた。だが、それは決して彼女を守ろうとしてのことではない。 しかし、何が……とキラとシンが混乱の中考えていたときだ。 「……レイ・ザ・バレル……」 ラクスの怒りを含んだ声が彼の名を呼ぶ。 「一体、どういう事ですの? そもそも、どうして貴方がここにいらっしゃるのですか!」 そして、どうしてステラをそのような目に遭わせるのか、とラクスは矢継ぎ早に問いかける。 「ステラ様は、私たちを守るためにここにいらしてくださったのですよ?」 何よりも、現在外で戦っているのは《ザフト》だろう、と彼女はさらに付け加えた。 「……ひょっとして……レイ君は……」 ザフトの一員なのか、とキラは呟く。 しかし、彼の名をラウから聞いたことはない。と言うことは、彼の部下ではないのだろう、とも。 「だましていて申し訳ありません、キラさん」 レイは淡々とした口調でこう告げる。 「俺は、ある人から貴方の身柄を守るように命じられてヘリオポリスに来ました」 だから、と彼はさらに言葉を重ねてきた。 「今であれば、ここから脱出できます。申し訳ありませんが、おつきあい頂けますか? ラクス様もご一緒に」 そんなこと、できるわけがない、とキラは思う。 「僕は……行かない」 ここにはムウがいる。そして、彼が自分を守ってくれることは疑う余地がない現実なのだから、と。キラは言い返す。 「本当にそうですか?」 しかし、彼はさらに言葉を重ねてくる。 「本当に彼を信じられるのですか?」 ムウを信頼して本当にいいのか、とレイは言外に問いかけてきた。 「どうしてそう言うわけ?」 彼を――彼等を信じることが、自分にとっては当然のことなのだ。なぜなら、彼等は自分のためにそれぞれの道を選んだことを、キラは知っている。そんな彼等を疑うなんて、自分が今まで生きてきた時間を全て否定するようなものだ。 「兄さん達を信じられなくなったら、僕は何を信じろと言うの?」 だから、ムウがいる限り、自分はこの艦の人々も信じる。キラはこう言い切った。 「……では、どうしても素直に付き合ってはくださらないと?」 レイの言葉に、キラは首を縦に振る。 「では、仕方がありませんね……彼女の命と引き替えになら、おつきあい頂けますか?」 さらに重ねられた言葉に、キラは唇をかむ。 「悪役だな、お前」 そんな彼に、シンがこう呟く。 「何とでも。俺は、キラさんにどうしてもプラントに行ってもらわなければいけないんだ」 そして、ラクスを見捨てるわけにはいかない、と彼はさらに付け加える。 キラに残された答えは一つしかなかった。 |