「……ラクス嬢は例の艦に収容されたそうだ」
 彼の言葉に間違いはないだろう。しかし、その情報をどこから入手してきたのだろうか、彼は。
 だが、どこからでもかまわない……とアスランは心の中で呟く。
 必要なのは、彼等がみな生きていることなのだ。
「あの艦の現在位置もわかったことだしな」
 そして、もう一つは自分が彼らを助けに行けることではないだろうか。
「これから、あの艦を捕縛する。そのための作戦だが……」
 そんな彼の耳をラウの淡々とした声が通りすぎていった。

 何故彼女が……とキラは思う。
「……あの……」
 それに、ここにいたのが自分たちだからまだいい。これがフレイ達の場所であれば間違いなく大騒ぎになったはずだ。最悪、彼女のみに危害が加えられることも考えられる。
「何でございましょう?」
 少女はこの場に似つかわしくない笑みをさらに深めながらこう問い返してきた。
「ラクスさん、ですよね?」
 ともかく、話のきっかけを……と思いながら、キラは言葉を口にする。
「そうでございますわ。貴方は?」
 無邪気な問いかけに、周囲のメンバーの態度が微妙に変化した。しかし、キラはそれをあえて無視する。
「キラです。キラ・ヤマト……」
 そして、自分の名前を口にした瞬間だ。彼女の微笑みが、今までのものとは一変する。
「貴方が、キラ様ですの?」
 そのままラクスはキラの側に近づいてきた。
「アスランのお友達の、キラ様、ですわね?」
 すぐ側から顔をのぞき込まれてしまったせいか、キラは頷くのが精一杯だ。しかし、ラクスには十分だったらしい。
「まさかこんなところでお会いできるとは思いませんでしたわ」
 満面の笑みと共にそのままキラの首筋に抱きついてくる。そして、頬に唇を寄せてきた。
「……あっ……」
「何してんだよ、お前!」
 そのラクスの行動に、アウルとステラが怒りをあらわにする。シンとレイは、状況が飲み込めていないのか呆然としているのがわかった。
「ただのご挨拶ですわ」
 ご心配なく、と彼女は二人に微笑むとそっとキラから離れていく。
「間接的とはいえ、ここでお知り合いの方にお会いできるとは思いませんでしたもの。うれしさを隠せませんでしたの」
 ご不快な気分にさせるつもりはなかった……とラクスは素直に謝罪の言葉を口にした。こうされてしまえば、彼等としてもいつまでも怒っているわけにはいかないのだろう。
「ったく……それよりもあんた、何で出歩いてるんだよ!」
 それでもこれだけは確認しないといけない……と判断したのか。アウルが問いかける。
「のどが渇いたので、何か飲むものを……と思ったのですけれど、どなたもおいでくださらなくて……食堂を探しておりましたら、ピンクちゃんがここに来たがりましたの」
 キラがここにいたからだろうか、と彼女は小首をかしげてみせる。
 それは偶然だろう、とキラが心の中で呟いたときだ。
「この子は、アスランがつくってくださいましたの。ですから、キラ様を捜していたのかもしれませんわ」
 本当は、キラに渡したかったのではないか……と彼女は微笑む。その言葉で、キラはアスランとの約束を思い出した。
「そんな約束もしたっけ。でもその前に、アスランが引っ越しちゃったからね」
 でも、自分が欲しいと言ったのは別の者だったんだけどな、と苦笑を浮かべる。
「それよりも、のど、乾いているんだよね?」
 どうしようか、とキラは小首をかしげた。
「キラも?」
 そんな彼の態度を受け止めたのか。ステラがこう問いかけてくる。
「ステラ?」
「キラも、のど、乾いた?」
 何か持ってくる? と彼女はさらに言葉を重ねてきた。
「僕は……」
「どうせなら、全員分もってこいよ。ついでに、ムウにこいつがここにいるって知らせるてきな」
 でないと、騒ぎになるぞ……とキラが口を開くよりも早くアウルがこう言う。
 つまり、飲み物を取ってくるよりも後者の方が重要、と彼は考えているのだろうか。
「でも、ステラ一人じゃ無理じゃない?」
 かといって、自分が行くことは許可してもらえないだろう。キラはそう考える。
「俺が行ってきますよ、キラさん」
 こう言いながら腰を浮かせたのはシンだ。
「君が一緒に行ってくれるなら、安心、だね」
 両手がふさがることはないだろう。
 それに、シンであればラクスよりも周囲から向けられる眼差しがマシなのではないか……とキラは思う。何かあっても、ステラが一緒だろうし、と。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
 シンはにっと笑うとステラに近づいていく。
「手伝うからさ。行こうぜ」
 そして、彼女に向かってこう声をかけた。シンの言葉に、ステラはどうするべきかと言うようにキラ達の方へ視線を向けてくる。
「荷物持ちができたんだ。行って来い」
 ムウへの伝言も忘れるなよ、と彼は言葉を返した。そのまま、キラへとすり寄ってくる。
「キラの事は、俺がちゃんと守っているからさ」
 これ見よがしに抱きついてきたのは、ラクスに対する牽制なのだろうか。
「皆様、仲がおよろしいのですわね」
 しかし、彼女の方が上手なのかもしれない。ふわりとした笑みをさらに深めるとこう口にする。
「皆様、そうやって仲良くできると……よろしいですのにね」
 この言葉には、キラも同意するしかない。
「そうですね」
 だから、微笑みと共にこう頷いて見せた。