「キラ!」
 声と共に、フレイが抱きついてくる。
「どうしたの、フレイ」
 別に、抱きつかれるのがいやだというわけではない。だが、彼女はサイの婚約者だったはず。それなのにどうして、と思うのだ。
「あのね、キラ……」
 しかし、フレイの方はキラの気持ちにまったく気づいていない。
「キラ、ナチュラル、嫌いじゃないわよね?」
 その上、彼女が口にしたのはこんなセリフだ。
「どうしてそんなことを聞くの?」
 ナチュラルだろうとコーディネイターだろうと、人として好きになれるならかまわない。自分にとって重要なのは、お互いの存在を認められる相手なのだ。
 キラは兄たちからそう教わってきた。
「……キラが、ナチュラルに協力してくれるなら……大丈夫。私が守ってあげるわ」
 しかし、フレイの口から出たのはこんなセリフだ。その意味がキラにはまったくわからない。
「……フレイ……」
 だから何が言いたいのか……とキラが問いかけようとしたときだ。不意に、体が反対側に引き寄せられる。
「キラは……私たちが守るの……」
 そして、ステラの声が耳に届く。
「ムウと、約束、したから」
 それにキラとも……と彼女は口にする。だから、フレイが守る必要はないのだ、とも付け加えた。
「……あんた達なんて、ただのパイロットのくせに!」
 しかし、フレイはこう言い返す。
「あたしのパパは、事務次官なの! そのパパの方があんた達よりも頼りになるに決まっているわ」
 だから、キラは自分の側にいる方がいいのだ、と彼女は口にする。その言葉から、フレイが何かを知っているのではないか、とキラは思う。
 あるいは、自分たちがここに集められたのも偶然ではないのだろうか。
 だとしたら、その理由は一体何なのだろう……とキラは心の中で呟く。あるいは、ムウに相談した方がいいのだろうか、これも。彼であれば、自分よりももっと詳しい情報を持っているだろうし、と。
 いっそ、ムウに許可をもらってハッキングの一つや二つ、した方がいいのだろうか。こんな事まで考えてしまう。
「親の七光りを使わないと、キラさんを守れないって訳?」
 フレイの言葉が耳に届いたのだろうか。シンの棘をふくんだ声が室内に響き渡る。
「シン……」
 すぐにそれをレイが止めた。その事実に、キラはほっと胸をなで下ろす。彼がうまく手綱を取ってくれれば、少なくともこの場での諍いは起きないだろう。
「フレイ……僕のことは、兄さん達が守ってくれるから……だから、大丈夫だよ」
 気にしてくれてありがたいけど……とキラはフレイに微笑みを向ける。
「それよりも、サイのことはいいの?」
 こっちを見ているよ……とキラはさりげなく付け加えた。
「サイはナチュラルだもの。それに、アーガイルはオーブだけじゃなく連合でもお知り合いが多いわ。だから、キラの方が心配だったの」
 フレイはどこか気に入らないというような光を瞳の中に浮かべながらこう言い返してくる。
「うん、気持ちは嬉しいよ。でも……そう言うことなら、僕にはマルキオ様がいるし」
 それに、ここではステラ達もいるから……とキラはふわりと微笑む。だから、まずは自分のことを考えて、とキラは口にした。
「マルキオ、様?」
 しかし、フレイはキラの思惑とは別のことにこだわっている。
「……両親が死んだとき、僕とカナード兄さんはまだ子供だったし、ムウ兄さんは遠くにいたから……マルキオ様が後見人になってくださったんだけど」
 それがどうかしたのか、とキラはフレイを見つめた。だが、彼女はそれ以上何も口にすることなくきびすを返してしまう。
「何?」
 そんな彼女の態度にステラが眉を寄せている。
「……みんなのところに行こう」
 キラがこう声をかければ、ステラはすぐに意識を切り替えたらしい。
「うん」
 ふわりと微笑み返してきた。