届いた報告に、カナードは忌々しさを隠せない。
「何を考えているんだ、地球軍は……」
 オーブの人間を《保護》したことに関しては感謝するべきだろう。だが、それが本当に《保護》であれば、だ。
「……あいつら……」
 まさか、裏でこんな事をしていたとは……という呟きと共にカナードは拳を握りしめる。
「ともかく……少しでも早く、あの方に連絡を取らなければ……」
 そして、今後の対処をどうするか、決めなければいけないだろう。こう考えて、カナードは深く息を吐き出す。
「ムウ兄さんが側にいる以上……連中にしても、うかつな行動は取れない、と思うが……」
 それでも組織の中に属していれば、余計なしがらみというものがある。自分の感情だけで動くわけにはいかないはずなのだ。
 もっとも、彼の場合、いざとなればキラを抱えて逃げ出すくらいのことは平然とするだろう。そして、自分たちが駆けつけるまでの間、あの子を守りきる程度の技量は持っているはずだ。だから、安心していい、とは思いたい。
 しかし、不安要素がそれを阻んでくれる。
「……アルスターなんて、そうある家名じゃないのにな」
 キラの友人達の中にいた少女が、あの《ジョージ・アルスター》の娘だったとは。だとすれば、ただの《好意》だけでキラに近づいたわけではないはずだ。
 あの男がキラをどう思っているか、自分は忘れたことがない。
 そして、あの男を含めた者達があの子をどうしようとしていたか、もだ。
「今回のことは……俺のミスかもしれん」
 自分がもっと早くその存在に気づいていれば、今頃はキラをもっと安全な場所に移していられたかもしれない。そう思っても、もう後の祭りだ、と言うこともわかっている。
 だからこそ、急がなければいけない。
 もう、二度と大切な誰かを失うことはしたくないのだ。まして、それが自分にとって生きる意義となっている存在ならなおさらだろう。
「キラ……」
 ともかく、どのようなことをしてでもキラを解放させる。
 そのためにはまず何をすべきか。
 いや、しなければならないことはわかっている。問題なのは、どうすればそれがすぐに行えるか、だ。
「……ギルドの本部へ行くか」
 確実さを優先させるのであれば、それが一番だろう。そう判断をして、カナードは機体の向きを変えた。

「……敵艦の追撃、及び捕縛……か」
 ある意味、それは願ってもない命令だといっていい。
 しかし……とラウは眉を寄せる。
「一体、どなたの思惑が絡んでいるのやら」
 それが問題だ、と心の中で呟く。いや、どこから情報が漏れたのか……と言うべきなのか。
 そう言えば、あの《男》は評議会議員ではないものの、かなりそれに近い場所にいたはず。そして、自分の理想を実現するために動いていたはずだ。
 その男に、キラのことがばれているとは思いたくない。
 だが、どこまであの男の手が伸びているのかを、自分は完全に把握しているわけではないのだ。そう考えれば、可能性が《ゼロ》だとは言い切れないだろう。あるいは、自分の正体も知られているのかもしれない。
 どちらにしても、今まで以上に慎重な行動をしなければいけないだろう。
「しかし、地球軍も死にものぐるいだな」
 奪取してきた機体は、とうてい普通のナチュラルが動かせるようなスペックではない。キラであれば、あるいは……とは思うが、既に実戦配備される寸前だったことを考えれば他の方法を見いだしたと言うべきなのだろう。
 それが何であるかも、調べなければいけないか。
「ともかく、彼等に話をしなければいけないな」
 そして、指示を出さなければいけないだろう。
 結局、自分はある程度、自由にできる部下を得た代わりに、組織に縛られてしまった。それは必要なことだった、とはわかっているが、このようなときには歯がゆいと思う。
「その前に……彼に連絡をしておくか」
 少しは安心してくれるだろうか。
 それとも怒るか。
 どちらにしても、連絡だけはしておいた方が、万が一の時の予防にはなるだろう。そう判断をして、メールを作成し始めた。