振動が室内を襲う。
「工場の方だよな」
 ぼそっとトールがこう呟く。
「何か、爆発したのかな」
 それに、カズイが言葉を返したときだ。カトーの客人がいきなりきびすを返す。そして、そのまま部屋から飛び出した。
「君!」
 反射的に、キラはその人物を追いかける。
「キラさん!」
 背後からシンが追いかけてくる気配がした。そして、他の友人達も。
「みんなはここにいて!」
 コーディネイターである自分とシンであれば何かあっても切り抜けられるのではないか。しかし、ナチュラルである彼等は違う。とっさにこう考えたと言うことは否定しない。
「でも、キラ!」
「僕は、カナード兄さんに鍛えられているから!」
 大丈夫だよ、とキラは一瞬だけ振り向いて微笑み返す。
「気をつけるんだぞ!」
 カナードのことを彼等も知っているからか。それで納得してくれたらしい。付いてくる代わりにこんな言葉が追いかけてきた。
「わかってる!」
 彼等に頷き返すと、キラは視線を戻す。
「キラさん」
「あの人、けがさせるわけにはいかないからね」
 お客さんだし、おそらくナチュラルだろう。
 それに、とキラは心の中で呟く。何故かはわからないが、そうしなければいけないのだ、と囁く声があるのだ。それが何であるのか、キラにもわからない。
「わかってます!」
 キラの言葉に、シンはしっかりと頷いてみせる。
「でも、君がけがをするのもだめだからね」
 でなければ、自分が悲しいから……とキラはシンに注意の言葉を口にした。シンの性格であれば、キラとキラの希望を優先して自分のことを後回しにしかねないのだ。ある意味、彼もカナードに負けないくらい過保護だと言っていいかもしれない。
 それは自分のことを好きでいてくれるからなのだろう。
 しかし、自分よりも年下の彼に守られるのは不本意だ、とキラは考えてしまうのだ。
「危ない!」
 そんなことを考えていた意識が、不意に現実に引き戻される。
 目の前の壁が爆風で破壊されたのだ。とっさにキラは目の前の人物の体を自分の方へと引き寄せる。
「……えっ?」
 その瞬間、その人物がかぶっていた帽子が落ちた。
「女の、子?」
 キラは思わずこう呟いてしまう。
「お前は、私を何だと!」
「そう言うけど、キラさんの方が美人で可愛いじゃん」
 彼女の言葉を遮るかのようにシンがこう言い切る。そう言われて、彼女はキラの顔をのぞき込んできた。
「……それについては脇に置いておいて……お前ら、何で付いてきたんだ!」
 この一瞬の間は何なのだろうか。
「万が一の時にシェルターの一がわかっている人間が付いていた方がいいでしょう?」
 それに、とキラは背後を振り向く。
「もう、戻るのは無理そうだね……」
 今の爆発のせいだろうか。三人が今通ってきた通路は瓦礫でふさがれていた。
「お前ら……」
「前に進むしかないって事だね」
 でなければ、ここで瓦礫に押しつぶされるのを待つしかないのか、とキラは付け加える。さすがに、それは避けたいだろう、と思う。
「仕方がない」
 できれば、他人にはあまり知られたくないことなのだが……と彼女は小さくため息をつく。そして、再び歩き出した。
「これから先、何を見ても驚くなよ」
 同時に、こんな言葉を口にする。
「この状況より驚く事なんて……ないと思うけどな」
 戦闘に巻き込まれているんだから、とシンは言い返す。オーブは中立のはずだったじゃないか、と。
 キラにしても、あの事実を知らなければ納得できたかもしれない。
 だが、そうではないことを知ってしまっていた以上、彼の言葉に頷くことができなかった。
「……キラさん?」
 そんな彼の態度を不審に思ったのだろうか。シンが声をかけてくる。
「……どうやらね……モルゲンレーテの工場の中で……地球軍用のMSの開発をしていたらしいんだ。ザフトは……それに気づいたんだろうね」
 だから、それをどうにかしようとして攻撃を仕掛けているのだ、とキラは彼にだけ聞こえるような声で囁いたつもりだった。
「そんな」
「……言葉は悪いけど、武器はお金になるんだよね。MSなんて言うものは特に」
 だから、上層部の誰かが、それに目をくらませて地球軍と手を結んだとしてもおかしくはない。あるいは、あちらから圧力をかけられたのだろうか。
「そうかもしれないけど、でも」
「でも、それが現実なんだよ。もっとも……僕がそれに気づいたのも、ついさっきのことだったけどね」
「バカがいたんだよ! オーブそのものを地球連合に売り払おうとした」
 キラ達の会話に割り込むようにして少女が口を開く。
「だから私は……そいつが何をしたのか確認したかったんだ。そして、証拠をつかめたらそいつを糾弾しようと……そう考えていた」
 調べていたら、カトー教授がそれに関わっていたらしいと行き着いたのだ。だから、会いに来たのだが……と彼女はため息をつく。
「どうやら、遅かったようだ」
 そして、彼女は足を止めた。その視線の先に、炎と爆煙に彩られた二つの機体が確認できる。
 その周囲で怒っていたのは、間違いなく戦闘だ。
「……嘘、だろう」
 呆然と、シンが呟く。
 だが、どんなに否定したくてもこれが現実なのだ。
 三人はただ、呆然と目の前の光景を見つめているだけだった。