「……彼は……私と同じ遺伝子提供者から生まれた存在なのだよ」
 二人だけになったところで、ラウは言葉を口にする。
「兄さん?」
 いったい何を、と言うようにキラはラウを見つめてきた。そんな彼の体をそうっと引き寄せると、膝の上に座らせる。
 昔からそう重くはない……とは思っていたが、ますます軽くなったような気がするのは錯覚だろうか。
「だが、私と彼は別の人間だ。考え方も、過ごしてきた時間も違う」
 そうだろう、という言葉にキラは素直に首を縦に振ってみせる。
 それはきっと、腕の中の存在が二人ともをよく知っているからだろう、とラウは考えた。同時に、そう思える彼が愛おしいとも思う。
「その彼が、どのような理由で彼に引き取られたかはわからない」
 だが、彼が不幸だったかどうかも自分にはわからないことだ……とラウは微笑む。
「私が、お前の存在があったからこそ、幸せだと感じているようにな」
 言葉と共にラウはキラの体を抱きしめる。
「兄さん、痛いよ」
 くすくすと笑いながら、キラがこう訴えてきた。
「そうかな?」
 それほど力を入れていないつもりだが、と言い返せば、
「そうだよ」
 とキラは頬をふくらませる。
「でも、兄さん達に抱きしめられるのは、安心できるから、好きだな、僕」
 次の瞬間、小さな声でこう囁いてくる。
「……相変わらず、甘えん坊だな、キラは」
 小さな声でラウは笑った。だが、そうしてくれることで自分が安心できることも否定しない。
「……兄さん達にだけだもん」
 他の人にはしない、とキラは呟く。
「そうか」
 その髪に指を絡めるとさらさらとすいてやる。そうすれば、キラは気持ちよさそうに目を細めた。
「僕、兄さん達の弟で良かった」
 そしてこう口にする。
「キラ」
「でなければ、どうなってたか、わからないもん」
 少なくとも、今の自分はいなかっただろう。キラはそう付け加えた。
「私たちも、お前の兄で良かったと思うよ」
 だから、他の二人にもそう言ってやれ、とラウは笑う。
「うん」
 ムウとカナードが戻ってきたら、そうする……とキラは微笑んだ。
「でも、今はラウ兄さんに甘えていいよね」
 なかなか甘えられなかったから……というキラにラウはしっかりと頷いてみせる。そうすれば、キラは嬉しそうにすり寄ってきた。

「……何のご用でしょうかね」
 サングラス越しに、目の前の人物をにらみ付ける。そうすれば、相手もまた苦笑を返してきた。
「まんまと騙された、と言うべきなのかな」
 そしてこう言ってくる。それが何を指しての言葉なのか、もちろんラウにもわかっていた。
「それは異な事を」
 しかし、それを表情に出すことはない。
「私がいつ、貴方を騙しましたか?」
 真実を告げなかっただけだ、とラウは心の中で付け加える。
「……まぁいい」
 そんな彼の態度に何かを感じ取ったのだろう。デュランダルはおとなしく引き下がる。
「それで、何のご用でしょうか?」
 改めてラウはこう問いかけた。
「……君達に認めてもらえるとは思えないのだがね」
 小さなため息と共にデュランダルは口を開く。
「キラ君との面会を、許可してもらいたい。もちろん、必要であれば、誰かに立ち会ってもらってもかまわない」
 ただ、話がしたいのだ……と彼は呟くように口にした。
「別段、今更彼の父親ぶるつもりはない。ただ……」
「ただ……何でしょうか?」
 相手ので方がわからない。それがここまで気に入らないものだとは思わなかった……と思いつつラウは次の言葉を促す。
「私が知っている《ヴィア・ヒビキ》という女性の話を……彼に聞いてもらいたいのだよ」
 彼女がどれだけすばらしい女性だったかを……と彼は口にした。
「他の誰でもない。彼に聞いて欲しいのだよ」
 許してもらえるのならね……という言葉に嘘は感じられない。
 だが、その場になっていきなり考えを翻す可能性は否定できないのだ。そう思わせるような言動を彼が取っていたことも事実である。
「そうですね……他の兄弟達と話し合ってから返答をさせて頂きましょう」
 自分一人では結論を出すわけにはいかない、とラウはきっぱりと言い切った。
「……それも、無理はないのだろうね……私の今までの行動から考えれば」
 そんなラウの態度にデュランダルは苦笑を返す。
「ただ……君に事前に許可を求めに来た、私の行動も評価してくれれば……ありがたいのだがね」
「……覚えておきましょう」
 その言葉にラウはこう言い返した。
「ところで……キラ君は、今日?」
 どこにいるのかね……とデュランダルはさりげなく話題を変えてくる。
「……ユニウスセブンの慰霊施設へ……アスランと約束していたそうですので」
 機会が与えられれば、マルキオの島にあるヤマト夫妻の墓にも足を運びたいのだ、とあの子達は口にしていた。その機会を、是非とも与えてやりたいのだが……とラウは思う。
「そうか……」
 何を考えているのだろうか。デュランダルは静かにこう呟いていた。