自分がプラントに来て、どれだけの日数が経っただろうか。
 そして、再びみんなと別れてからどれだけの時間が過ぎたのか。
 ふっとキラはそんなことを考えてしまった。
「キラさん、どうかしましたか?」
 そんなキラの様子を心配したのだろうか。シンが問いかけてくる。
「何か気にかかることでも?」
 その後に続くように落ち着いた声がキラの耳に届く。
「なんでもないよ」
 どのような話し合いがもたれたのかはわからない。だが、あのころと変わらずにレイもまた自分の側にいてくれる。それがどのような意図から決められたことでもかまわないかな、と思えるのは、やはり自分が彼を好ましいと思っているからだろうか。
「ただ、兄さん達が元気かなって、そう思っただけ」
 苦笑と共に本音を口にすれば、レイは納得したというように頷いてみせる。
「問い合わせてみますか?」
 そして、こう聞き返してきた。
「レイ君?」
「ヴェサリウスの状況ぐらいであれば、本部に問いかければ教えてもらえるはずです」
 個人の状況までは無理かもしれないが……と彼はさらに付け加える。
「……いいよ」
 別に、そこまでしなくても……とキラは呟く。何か――自分にとって認めたくない事実――があれば、即座に連絡が来るだろう。
「便りがないのは無事な証拠……っていう言葉もあるみたいだし」
 忙しいのかもしれないから……とキラが付け加えたときだ。
「いや。どうやら、しばらくは暇になりそうだ」
 ここで聞くなんて考えても見なかった声がキラの耳に届く。
 いや、そう思ったのはキラだけではない。
 シンとレイの二人もはじかれたように視線を向けた。
「……ラウ兄さん……」
「クルーゼ隊長」
「なんで、あんたが……」
 他の二人にも見えている、と言うことは自分の錯覚ではないのだろう、とキラは判断をする。
「どうやら、私の仕事はなくなったようなのでね。後は、政治家の仕事だろう」
 だから帰還したのだ、と微笑みながら、彼はゆっくりとキラに歩み寄ってきた。そして、そっとキラの頭に手を置く。
 そこから伝わってくるぬくもりがキラに全てが現実だと教えてくれる。
「ラウ兄さん」
 反射的に、キラは彼に抱きつく。
「ただいま、キラ」
 そんな彼を、ラウは苦笑混じりに抱きしめてくれる。
「ともかく、停戦が決定したからね。後は……無事にそれが現実になることだけだね」
 まぁ、ムウは喜び勇んでこちらに来るつもりらしいが。
「でも……」
 いくら停戦協定が結ばれても、そんなことが可能なのか、とキラは思う。
「マルキオ様もご一緒だそうだからな」
 その護衛という名目で押しかけてくるつもりらしい、と彼は付け加えた。
「……カナード兄さんも、マルキオ様の所に行っているはずだけど……」
 一緒に来るのかな、とキラは小首をかしげる。
「もっと厄介なのと一緒に来るかもしれんな、それでは」
 苦笑と共に言い返されて、キラは誰のことだろうと考えてしまう。
「……キラ、それよりも、着替えてきてもかまわないかな?」
 こう言われて、キラは慌てて彼から離れる。
「ごめんなさい」
「なに。かまわないよ」
 それだけ、心配してくれていたということだろう? とラウは口にした。
「あぁ……落ち着いたらアスラン達も来るそうだからね」
 覚悟しておきなさい、と付け加えると、ラウは自室へと向かっていく。
「良かったですね、キラさん」
「……また、騒がしくなるけどな」
 レイはともかく、シンはどこか嫌そうだ。それはどうしてなのだろう……とキラは思う。
「シン君は、アスラン達、嫌い?」
 考えてもわからないから、問いかけた方が早いかもしれない。そう考えて、キラはこう口にした。
「そういうわけじゃないですけど……」
 シンは視線をさまよわせつつこう言い返してくる。
「シンは、キラさんを独占できなくなるのがいやなんですよ」
「レイ! 余計なことをいうな!」
 レイの言葉を、シンが慌てて遮ろうとした。もっとも、それは遅かったが。
「独占?」
 何の話だろう、とキラは思う。
「ここだと、せいぜい俺やラクス様達が邪魔しに来るだけで、普段は二人だけでしょう?」
 それがシンの幸せだったらしい、と言われても、キラにはぴんと来ない。
「別段、普通のことしかしてないでしょ?」
 それに、カナードだっていることが多いんだし……とキラは反対側に首をひねる。
「あまり深く考えないことだな」
 一体どこから聞いていたのだろうか。ラウの声が再び全員の耳に届く。
「兄さん」
 そんな彼を見て、シンとレイは今までと違った意味で凍り付いた。
「いいの? 素顔」
 それは彼が仮面をはずしていたからだろう、と言うことはキラにもすぐに見当が付く。しかし、いいのだろうか、とキラは思う。
「かまわないだろう。少なくとも、ここではね」
 彼等もどうこう言うわけないだろうし、とラウは微笑み返す。
「……何で、レイと同じ顔なんだよ!」
 そんな二人の間に、大音声のシンの叫び声が響き渡った。