キラの性格は彼等の影響なのか。そう思わせるような彼女の両親の姿に、ギルバートは少しだけ緊張を和らげる。
 その時だ。室内に軽やかな着メロが鳴り響いた。そのメロディが誰の歌なのか、プラントのものであれば確認しなくてもわかる。
「キラ、どうしたの?」
 しかし、キラの両親はそうではない。首をかしげながら問いかけてきた。
「友達からの電話」
 ちょっと、話をしてくる……と言いながら、キラは腰を上げる。
「あらあら。大切な友達なのね」
 キラの母――カリダが苦笑と共にこういった。
「うん。とても大切な親友だよ」
 きっと、この後のことで確認があるんだと思う。この言葉とともに、キラは廊下へと出ておく。
「……知らないことが、たくさんあるのね」
 そんな彼女の背中を見送りながら、カリダが小さなため息をついた。
「仕方がない。私たちが決めたことだ」
 あの子達と離れて暮らすことも、プラントに預けることも……とキラの父――ハルマが言い返している。
「だが、二人とも、ここでは大切にして貰っていたようだ」
 だからこそ、大切だと言い切れる友人を作ることが出来たのだろう。そう言って彼は微笑む。
「婚約者までは予想外だったがね」
 やはり言われたか。そう心の中で呟くと、ギルバートは苦笑を浮かべる。
「申し訳ありません」
「いや。非難しているわけではないよ。困惑はしているがね」
 一応、キラからのメールで事情は把握しているが……とハルマも苦笑を返してきた。
「少なくとも、君ならばあの子を大切にしてくれそうだし、あの子が自分で決めたことだから反対はしないでおくよ」
 ただ、とハルマは表情を引き締める。
「あの子が不幸になりそうだというのであれば、話は別だが」
 それが何を意味しているのか。ギルバートにもわかった。
「私が傍にいて欲しいのは、私が知っている《キラ》ですから。あの子がどのような生まれであろうと関係ありません」
 言外に、自分はキラがどのように生まれたのかを知っている……と二人に告げる。
「……貴方は……」
「あの子を守るために必要なのではないか。そう思って、ラウから強引に聞き出しました」
 しかし、キラはもちろん、他の者達にも伝えてはいない。
 自分だけが知っていればいいことではないか、そう判断したのだ。ギルバートはそうも付け加える。
「コーディネイターの未来は、自分たちの手で切り開いていくべきだ、と思いますから」
 だから、無理に手を入れようとは思わない。そう続ける。
「君はいい人物だね」
 そう言って、ハルマが笑う。
「君ならば、信じられるだろうね」
 そう告げると共に、彼は胸のポケットから一枚のディスクカードを取り出す。そして、それをギルバートへとさしだしてきた。
「これは?」
「姉の残した研究データーです」
 ギルバートの問いかけに言葉を返してきたのはカリダだ。
「もっとも、これだけでは完全ではありません。本当に重要なデーターは、キラが持っているはずです」
 もっとも、本人はそれに気付いていないだろう。だが、いずれ思い出すのではないか。
「全ては、君の努力次第だろうね」
 そう言って、ハルマは笑った。
「……心しておきましょう」
 もっとも、思い出すことでキラが苦しむのであれば、思い出さなくていい。それが、プラントへの背信行為だとしても、知っているのは自分だけだ。ギルバートは心の中でそう付け加える。
「どうしたの? ギルさん、嬉しそうだけど」
 そこにキラが戻ってきた。
「ご両親から、許可をいただけたのでね」
 それが嬉しかっただけだ、とギルバートは言い返す。
「本当?」
 キラが驚いたように両親へと視線を向ける。
「本当だよ」
 ハルマが言葉とともに優しい笑みを浮かべた。
「あなたが決めたことだもの。私たちが反対できるはずがないでしょう?」
 さらにカリダがこう告げる。
「ありがとう!」
 嬉しい、とキラは満面の笑みを浮かべた。

 その数分後、ラクスが姿を見せた。それだけではなく、いつの間にかカガリまでもが押しかけてくる。
 その結果、とんでもない混乱がその場で繰り広げられた。
 それもまた、楽しいと思えた自分がいたことを、ギルバートは忘れていなかった。







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最遊釈厄伝