キラが十六歳になったその日、彼女は一番輝いていた。
 いや、女性であれば誰でも一番輝いて見える日かもしれない。
「……まったく……早すぎると思うのだがね、いくらなんでも」
 そんなことを考えていたギルバートの隣で、ラウが忌々しそうにこう呟く。
「別に、この男が三十路を過ぎようと何をしようと、あの子が、気にすることではないだろうが」
 言葉とともに視線をギルバートへと向けてくる。
「私もそう言ったのだがね」
 周囲がうるさいというのも理由の一つなのだろうか。そう言って余裕の笑みを浮かべる。
「……あれか……」
 その一言でラウにも誰のことかわかったらしい。
「あのあきらめの悪さだけは感心するがな」
 だが、そのせいでキラが早々に結婚することになってしまったのは気に入らないな……と呟く。
「せめて、あの子が二十歳になるまでは独身でいさせたかったのに」
 そうすれば、きっと、誰かさんよりももっといい男が見つかったかもしれない。さらにこうも付け加える。
「酷いね」
 花婿の前で、とギルバートは言い返す。
「そうも言いたくなるだろう? キラとお前が結婚すれば、義理とはいえ、お前が弟になるのだぞ?」
 自分よりも五歳も年上なのに、とわざとらしいため息をつく。
「そんなことは関係ないと思うが?」
 第一、自分が彼のことを義兄と思うはずがないだろう。そう言って笑い返す。
「そうだな」
 そんな愁傷な性格をしていないか、と即座に言い返される。
「……もっとも、近いうちに私とレイは君の所から引っ越しをさせてもらうが」
 しかし、このセリフは予想していなかった。
「何故かな?」
 反射的にこう聞き返してしまう。
「新婚家庭を邪魔するほど、愚かではないつもりだよ」
 レイには教育上よくない。そう言って彼は笑う。
「第一、そのまま居座るとなれば、私がお二人に怒られる」
 だから、デュランダル邸の傍に部屋を借りた。そう言って彼はさらに笑みを深めた。
「状況が許せば、しっかりと御邪魔虫をさせてもらうよ」
 きっと、毎日押しかけてくるのではないか。そんな予感がギルバートにはあった。だが、それもキラが喜ぶのであれば構わないか。そう考える。
「ギル。それにラウも」
 不意にドアからレイが顔を出した。
「準備が出来たから、来てくださいって」
 その言葉に、ギルバートは頷く。
「花嫁が待っているのであれば、これ以上のイヤミはやめておこう」
 ラウもまたこう言いながら頷いて見せた。
「……本当に君は、あきらめが悪いね」
 ため息とともにギルバートはこう言い返す。
「当たり前だろう。そうでなければ、今の地位を手に入れることなど難しいしね」
「……まぁ、そうだろうね」
 苦笑を浮かべるギルバートの背中を彼は叩いた。
「ということで行こうか」
 この言葉とともに彼は歩き出す。
「花婿より先に行くつもりかね?」
 そんな彼に向かって、ギルバートは言葉を投げつける。そして、遅れまいと歩き出した。

 バージンロードをハルマに導かれながら、キラが歩み寄ってくる。
 そんな彼女に、ギルバートは微笑みかけた。そうすれば、キラもまた輝くような笑みを返してくれる。
 手を差し伸べれば、ハルマから小さな手を引き渡される。
 その手を、ギルバートはしっかりと握りしめた。








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最遊釈厄伝