キラの言葉があったからだろうか。完璧と思える挨拶を考えつくことが出来た。 しかし、それを披露する時間をギルバートは与えられなかった。 「貴様が、キラをたぶらかした大人か!」 この言葉とともに拳が飛んでくる。 「避けるな!」 反射的に避ければ、今度は罵声が響いた。 「普通、避けると思いますよ? カガリ姫」 さらに繰り出された拳を避けながらこう言い返す。 「うるさい! とりあえず、一発殴られろ!!」 しかし、彼女は聞く耳を持たない。さらに拳を繰り出してくる。そして、周囲もそれを止めようとしないのは何なのか。 そう思ったときだ。 「カガリ!」 室内にキラの声が響く。その瞬間、カガリが凍り付いたように動きを止めたのは何なのだろうか。 「……キラ?」 そのまま、彼女はおそるおそるといった様子でキラへと視線を向ける。 「ギルさんに、何をしているの?」 視線の先には、珍しく怒りを顕わにしている彼女の姿があった。 「何って……まぁ、挨拶の一種だな……」 お約束って奴だ、とカガリは気まずそうに視線を彷徨わせながら口にする。 「それは、父さんの役目じゃん」 どうしてカガリがそれをするのか、とキラは目をすがめながら問いかけた。 「……どうしてって……私がしたいからだ」 「なら、僕がして欲しくないから、やめて」 やったら、絶交するからね。そうも彼女は付け加える。 「絶交って……キラ?」 何をする気だ、と頬を引きつらせながらカガリが聞き返した。 「メールもしないし、オーブに帰るようなことがあっても、会わない」 いっそ、帰らない方があれこれ面倒くさくなくて楽だろうか……とキラは首をかしげながら付け加える。 「キラ!」 「父さんと母さんのことなら、ギルさんが入国許可をもらえるように手配してくれますよね?」 そのまま彼女は視線をギルバートへと向けた。 「もちろんだよ」 微笑みながら頷いてみせる。 「それよりも、何かあったのかね?」 確か、ご両親と会っていたのではないか。そう聞き返す。 「父さんがギルさんに『会いたい』って。式典が終わってからでもいいんじゃないとは言ったんだけど……」 聞き入れてくれなくて、とキラは付け加えた。ギルバートには仕事もあるのに、と続ける彼女に、優しい笑みを向ける。 「なるほど」 確かに、それは礼儀に反していたね……と頷きながら口にした。 「今、お時間、あります?」 「もちろんだよ」 ここは自分がいなくても大丈夫だろう。むしろいない方が良さそうだ。そう言ってギルバートは笑う。 「……キラ……やっぱり……」 そのまま彼女の方へ歩み寄るギルバートの背中を、カガリの声が追いかけてくる。 「ダメ!」 即座にキラが言い返す。 「そういうことを言うカガリは嫌いだ」 ユウナ・ロマと同じじゃないか、とそのまま付け加える。 「……私が、あれと同じ?」 流石に、それは衝撃的なセリフだったのか。カガリは呆然としたままそう呟いた。しかし、キラはまったく気にする様子を見せない。 「だって、人の話を聞いてくれないところ何かそっくりでしょ?」 しかも、自分のやりたいことを優先するし……と追い打ちをかけるように付け加えた。 「そんな……」 衝撃を隠せないというような表情で、カガリは今度は本格的に凍り付いた。 「……キラさま……」 流石に黙っていられなくなったのか。苦笑と共に彼女の護衛官が呼びかけてくる。 「後はお願いしますね、キサカさん」 どうやら、キラは彼と顔見知りらしい。苦笑と共に言葉を口にした。 「……とりあえず、反省をするように促すが……貴方もほどほどにお願いします」 多分、今の一言が一番効いたはずだから。そう彼は言い返してくる。 「考えておきます」 こう言いながら、キラはギルバートの腕にそっと触れてきた。 「ギルさん」 そのまま、彼を見上げてくる。 「では、案内してくれるかな?」 ご挨拶をさせて貰おう。そう言いながら、実はかなり緊張している。その事実に気付かれないといいのだが……とギルバートは心の中で呟いていた。 |