カレッジでの生活は、穏やかに過ぎていった。 もっとも、たまに何か騒動が起きていたようだが、その内容がキラの耳にはいることは滅多にない。しかし、その時に限ってラクスの機嫌が悪化していたのはその騒動に関係しているのだろうか。 そんなある日のことだった。 「……オーブからの、使節団、ですか?」 また、とキラは頬を引きつらせる。それはきっと、前回のことがあるからだろう。 「大丈夫だよ、キラ」 それを察したのか。ギルバートが微笑みながら口を開く。 「今回の団長は、アスハの姫だからね」 そして、カナードの名前も使節団のリストに載っている。その言葉に、キラは少しだけ胸をなで下ろす。 そのメンバーだと、別の意味で怖い。そう思ったのだ。 「……ひょっとして、ギルの品定めに来るつもりでしょうか、カガリさん」 しかし、レイがその不安をストレートに口にしてくれる。 「レイ……」 「ないとは言い切れませんよ?」 というよりも、カガリが自分の覚えているとおりの性格なら、確実にそうするだろう。 「カナード兄さんが一応とは言え認めていますから、心配はないと思いたいのですが……」 カガリだからなぁ、と彼はため息をつく。 「……思いこんだら、一直線だもんね、カガリ……」 ため息とともにキラも頷いた。 「でも、カナード兄さんがいてくれるなら、ストッパーになってくれるかな?」 キラはそう呟く。 「……少なくとも、あのバカのようにプラントを混乱させることはない、と思いますけど?」 ラクスのコンサートを台無しにするようなことは、とレイは付け加える。それで、そんなこともあったな……と思い出した。 「でも、ホテルを抜け出すぐらいのことはするよね?」 カナードがいるなら絶対に、とキラは告げる。 「ばれないように完璧に」 レイは即座に同意の言葉を口にした。 「でも、目的地はここだと思いますよ?」 カガリの目的は、キラに会いに来ることに決まっている。レイはそう断言した。 「……それだけですむよね?」 何か、とんでもない行動に出てくれそうな気がするのは錯覚だよね? とキラは思わず問いかけてしまう。しかし、レイはそれに言葉を返してくれない。代わりに、視線を彷徨わせてくれた。 「……レイ……」 「とりあえず、ラウに連絡を取っておきましょう!」 少なくとも、テロ行為だけは止められるはず……と力説をする。 「そんなに強烈な方なのかな?」 頬を微妙に引きつらせながらギルバートが問いかけてきた。 「ラクスさま並みに、姉さんが大好きな方です」 しかも、ラクスとは違って実力行使にでるタイプだ……とレイが言い返す。 「一発ぐらいは、挨拶代わりだと思っていた方がよいかと」 顔は『キラが気に入っている』という理由で避けてくれるだろうが、とわざとらしいため息とともに彼は付け加えた。 「レイ!」 いくらなんでも、それは……とキラは言い返す。 「だって、カガリさんですよ?」 そして、カナードが止めるはずがない。いや、彼だけではなくラウだってその位は見て見ぬふりをするのではないか。 「……レイも、止めてくれないんだ」 キラは思わずこう言ってしまう。 「止める必要を感じません」 一発ですませてくれるだろう。それに仕事にししょうがでない程度には手加減してくれるのではないか。 「でも!」 「俺としては、あの人がラクスさまを味方に引き込む方が怖いですけどね」 そうなったら、どうなるか。 「……恐いね、それは」 こう言い返しながらも、意外と仲良くなりそうだ……とキラは心の中で呟く。次の瞬間、思い切り後悔してしまったことは否定できないが。 |