忙しくなったからか。ラクスからデュランダル邸に足を運ぶことは少なくなった。代わりに、キラが彼女の元へと出かけているのだから、顔を合わせる機会は以前と変わらない。
「……ラクス?」
 今日もいつものように彼女の顔を見に行ったのだが、そのとなりに見知らぬ相手を見つけてキラは首をかしげてしまった。
「あぁ、キラ。お待ちしておりましたわ」
 にっこりと微笑みながらラクスがキラを手招く。
「ごめん。遅くなった?」
 いつものように彼女に歩み寄りながら、キラは問いかける。
「いいえ。ただ、わたくしがすこしでも早く、キラにお会いしたかっただけです」
 そろそろ、キラ不足になりそうでした。そう言って彼女は笑みを深めた。
「僕不足って……」
 ギルバートやラウ達でもあるまいし……と思わず口にしてしまう。
「あら。わたくしだけではありませんのね」
 もっとも、ルナマリアも似たようなものらしいが。その言葉に、キラは首をかしげる。
「ルナとは毎日、メールしているけど……そんなこと、書いてなかったよ?」
「あら。それはずるいですわ」
 自分も毎日メールをしたい、とラクスは口にした。
「来れば普通に返すけど……ラクスとは学校でも会えるでしょ?」
 それに、こうして会いに来るし……とキラは付け加える。
「わかっていますわ。でも、傍にいないと別の意味で不安で」
 自分の知らないところで誰か変な人に引っかかってないかと、とラクスは口にした。
「ラクス」
 そんなことを言われるとは主割っていなかったキラは思わず目を丸くする。
「先日も、何か、厄介ごとを押しつけられそうになったと、お聞きしたのですが……」
 それは間違いだったのか。こう言われて、キラはさりげなく視線を彷徨わせる。
「やはり、本当ですのね」
 まったく、とため息をつきながらラクスは言葉を口にした。
「わたくしが頷かないからといって、キラを取り込もうとするなんて、あきれますわ」
 しかも、自分がいない場所で……といいながら、ラクスは手を握りしめる。
「ダメだよ、ラクス!」
 そんな彼女の手を、キラは慌てて自分のそれで包み込んだ。
「そんなことをしたら、掌に傷が付くよ?」
 だから、とキラは微笑む。
「それに、ああいう人にはなれているから」
 レイが断り方を教えてくれたし、と付け加えた。
「キラ?」
「ギルさんやラウ兄さんと親しくなりたいって言う人も結構多いんだよね」
 苦笑と共にそう付け加えても、ラクスの表情は晴れない。
「それでも、わたくしがいやなのですわ」
 ですから、とラクスはキラの瞳をのぞき込んでくる。
「わたくしが信頼できる方とお知り合いになって頂こうと思いましたの」
 友達になれるかどうかは、キラと彼女次第だ。だが、そのきっかけぐらいは作らせて欲しい。そう言ってラクスはようやく微笑む。
「ラクス」
 そんなことをして、相手の方に迷惑ではないのか。キラはそう言おうとする。
「大丈夫ですわ。ねぇ、シホさん」
 だが、それよりも早く、彼女は背後で微笑んでいる女性を振り仰いだ。
「はい。私の方から紹介して頂きたいとお願いしましたから」
 そうすれば、彼女はこう言い返す。
「シホ、さん?」
 それが彼女の名前なのだろうか。
「はい。シホ・ハーネンフースです。お二人よりも一つ上、になりますね」
 でも、校内では気にしないで声をかけて欲しい。そう言って彼女はキラへと手を差し出してくる。
「よろしくお願いします」
 どうやら、悪い人ではなさそうだ。仲良くなれるかどうかはわからないが、それなりに親しくできるのではないか。そう思って、キラも彼女へと手を差し出した。







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