あそこまで言われて、流石のアスランもショックを隠せないようだ。だからといって、サプライズパーティを欠席するつもりはないらしい。しっかりとその姿を確認できる。 もっとも、いつもの勢いはなかったが。 「……何かありまして?」 その事実に気が付いたのだろう。そっと歩み寄ってきていたラクスが問いかけてきた。 「キラに振られた、といったところでしょうか」 正確には違う。 だが、キラはアスランに『ラクスと結婚するのは君の義務だ』と告げたのだ。それは裏返せば、自分は彼を恋愛対象としてみていない、ということでもある。 「まぁ」 それはそれは、とラクスは笑い声を立てた。 「アスランにはいい薬ですわ」 パトリックという存在があるせいで、自分たち以外からの人間に拒絶をされたことがない。 そして、似たような立場だからか。自分たちはそこまで踏み込んだ人間関係を築いていない。ニコルにしても、親しいと言えるのは《音楽》という共通の話題があるからだ。 「わたくしたちは『拒絶される』という経験をなかなか出来ませんもの」 それではいけない。 わかっていても、周囲が自分たちの言葉を勝手に受け入れてくれる状態では、なかなか難しいのだ。 「だといいのですが」 考えが別の方向に向かなければいいが。ギルバートはため息とともにそう告げる。 その脳裏に浮かんでいたのは、もちろん、オーブの大馬鹿者の存在だ。 「少なくとも、あのお方のようなことはないと思いますわ」 キラに気付かれないようにそんなことが出来る性格ではない。ラクスはそう言って微笑む。 もしばれたら、完全に嫌われる。 その怖さと自分の気持ちを天秤にかければ、彼がどちらを選ぶのか。わかりきっているだろう。 「もっとも、今は……ですが」 そのうち、その方法に気付くかもしれない。もっとも、そうなっても直ぐに気付くだろうが……と彼女は付け加えた。 「あの子の周囲の警戒は怠りませんよ」 もちろん、とギルバートは言い返す。 「そうしてくださいませ」 キラは自分にとっても得難い友人だから、とラクスは微笑んだ。 「彼女に何かあれば、わたくしは仕事が手に付かなくなるかもしれません」 「それは……困りますね」 ラクスの《歌》は既にプラントの人々の心をとらえている。それによって、ある程度のコントロールが可能なのではないか、と揶揄されるほどだ。 同時に、彼女の影響力の大きさは自分たちもよく知っている。 彼女がその気になれば、プラントの政権すらひっくり返せるかもしれない。 もっとも、今、最高評議会議長の座にあるのは、彼女の父であるシーゲルだ。その彼をうまく動かせば、混乱を引き起こす必要はないはず。 それでも、侮れないと言うことだけは否定できない事実だろう。 「そう言えば、キラは?」 ふっと思い出したというように、こう問いかけてくる。 「カナード君と出かけていますよ」 気付かれないように連れだして貰った、といった方が正しいのだが。そう言って笑みを深める。 「もっとも、準備が出来たので、そろそろ戻ってくるでしょう」 そうなると、アスラン達の行動が心配になるが。 「とりあえず、ニコルは大丈夫でしょうね」 キラが入ってくると同時に、彼はピアノの演奏を開始することになっている。だから、アスラン達と行動をすることが出来ないはずだ。 「なら、私たちで適当に止めましょう」 多少手荒なことをするかもしれないが。そう言って笑う。 「足を引っかけるぐらいなら、わたくしでも出来ますわ」 ラクスもこう言ってくる。 「おやめください。足をくじかれては困ります」 キラも悲しむから。そう付け加えれば、ラクスは仕方がないという表情を作った。 「キラは怒りませんけど……悲しませる方が辛いですわ」 自分的に、と彼女は続ける。 「だからこそ、最強なのかもしれませんね、あの子が」 ギルバートのこの言葉に、ラクスも同意をしてくれた。 |