「じゃ、今、ラクスは一人なの?」 こう言いながら、キラが駆け寄ってくる。 「いや……シーゲル様とうちの父が傍にいる……」 だから、ラクスは一人ではない。そう彼は言おうとしたのだろう。 「だったら、余計に、ラクスの傍にいないとダメじゃない」 しかし、それよりも早く、キラがこう告げる。 「キラ?」 何故そんなことを言われるのかわからない。そう、彼の表情が言っている。 「お二人が一緒なのに、どうしてアスランがここにいるの?」 ラクスに面倒ごとを押しつけているだけではないのか。その指摘、彼はぐっと言葉に詰まった。 「わかったなら、さっさとラクスの所に戻って。婚約者を放っておくなんて、最低なことだよ」 そんな彼にキラはさらに追い打ちをかけるようなセリフを投げつける。 「俺とラクスは、別に婚約をしているわけでは……」 流石に、思いを寄せている相手にそう言われては否定しないわけにはいかないようだ。 「今はそうでも、いずれしなきゃないんでしょ?」 対の遺伝子を持っているのなら、とキラは言い返す。 「それでなくても……仲がよくないってみんなに思われたら、困るんじゃないの?」 違うの? と聞き返す彼女の政治認識は正しい。 もしここで、ラクスとアスランが不仲だという噂が立てば、それは二人の父親にも関わってくるのではないか。 その結果、プラントが二つに割れる可能性も否定できない。 「……キラ……」 しかし、アスランはどうしてもキラから離れたくないようだ。というよりも、彼女と踊らないうちはこの場を離れたくない、ということか。 「ギルさん。もう一曲、踊ってくれますか?」 彼の気持ちを察したのだろう。キラがこう言ってくる。 「もちろんだよ」 キラのお誘いを断るはずがないだろう。そう言って微笑み返す。 「だから、何でその人なんだよ!」 ギルバートが差し出した手の上にキラが自分の手を重ねた瞬間、アスランがこう言ってくる。 「だって、ギルさんだから」 今日、自分のパートナーが彼だから、ではない。ギルバート・デュランダルという相手だからこそ、自分は選ぶのだ。そうキラは続ける。 「アスランはいいお友達だけど、そう言う対象とは考えられないもの」 にっこりと微笑んでさらにとどめを刺す言葉を口にした。 「……キラ……」 「義務と権利は、等しいものなんだよ?」 権利だけを甘受することは出来ない。アスランにとっての義務が何であるのか。そう考えれば、自分はそう言う対象として彼を見るつもりはない。 きっぱりとした声音の裏に、何かがあるような気がするのは錯覚だろうか。 「第一、兄さん達より弱い人は嫌いだって、前に言ったでしょ?」 にっこりと微笑むキラは本当に可愛らしい。 しかし、アスランにとって見れば死刑先決を宣告されたと言っていいのではないか。 だが、それを哀れに思うつもりはない。 「では、いこうかね」 そう誘えば、キラは小さく頷いてみせる。そのまま、寄り添うようにしてフロアへと移動をした。 流石のアスランでも、これは止めることは出来ないようだ。 「……いい加減、自分の立場をわかってくれればいいのに……」 それを確認したのか。キラは小さな声でこう呟く。 「彼も、色々と反発したい年頃なのだろうね」 自分にも覚えがあるが、とギルバートは告げる。 「まぁ、そのうち自覚できるだろう」 その前に、爆発した結果、厄介なことを引き起こさなければいいのだが。心の中でそうも呟く。 「カナード兄さんがいる間に、護身術を教えてもらおうかな」 キラが不意にこう告げる。 「それはいいかもしれないね」 キラがそうしたいのなら、とギルバートは微笑んで見せた。 |