三人の恨みがましい視線が絡みついてくる。 流石に、少し鬱陶しいかもしれない。だが、この程度は無視しても構わないだろう。 第一、この程度で表情を変えるようなオコサマではない。 そして、その事実をキラに悟らせるようなマネをするはずがないだろう……とギルバートは心の中で呟いた。 もっとも、キラにその余裕があるかといえば、かなり疑問だが。 「落ち着いて。ちゃんとフォローしてあげるから」 何よりも、ちゃんと覚えている。キラの耳元でそう囁く。 「……ギルさん……」 「それに、みんな似たようなものだよ」 今日のために特訓してきた人々がほとんどだろう。だから、多少間違えても気にしなくていい。そう言って微笑む。 「だからね。堂々としていなさい」 その方が、失敗が目立たない。そうも付け加えた。 「……はい」 キラは直ぐに頷いてくれる。それでも、意識がステップに向いてしまうのは仕方がないことだろう。 「別に、踏まれたからと言って怒らないよ」 だから、顔を上げなさい。 「顔を下げたまま踊る方がマナー違反だよ」 ここまで言えば、流石のキラも顔を上げないわけにはいかなかったようだ。 その瞬間、しっかりと足を踏まれたのはご愛敬というものだろう。 「……あっ……」 「気にしなくていい。それよりも、君の顔を見られる方が嬉しいからね」 そう言いながら、さりげなくキラの体を自分の方へと引き寄せる。 その瞬間、絡みついていた視線に盛大に棘が生えた。それすらも楽しい。そう言ってはいけないのだろうか。 「ラウもカナード君も、それは覚悟しているだろうからね」 それでもにこやかな表情を崩さないまま、言葉を口にする。 「そうなのですか?」 「そうだよ」 だから、構わないから足を踏んでやりなさい。それでも、絶対に視線を落とさないように。我慢をするのも、男の役目だ。そう続ける。 「女性は、背筋を伸ばして、自分が一番綺麗に見えるようにするのがこういう席でのマナーだよ」 嘘だと思うなら、後でラクスに聞いてみればいい。その言葉にキラは小さく微笑む。 「ギルさんが、僕に嘘を言うはずがありませんから」 だから、ラクスには聞かない。でも、ラウとカナードには事前に確認を取っておく……と彼女は続けた。 「万が一『ダメだ』といわれたら、また私と踊ろうね」 その言葉に、キラは小さく頷いて見せた。 もちろん、彼等が『ダメ』というはずがない。むしろ、喜々としてキラの手を取るとフロアへ向かっていった。 その姿を微笑みと共に見送っていたときだ。 「……いい気にならないでくださいね」 直ぐ傍でこう囁いてくる声がある。 「何が、かな?」 自分をエスコート役に選んだのはキラだよ……と微笑みながらギルバートは言い返す。 「年齢が違いすぎませんか?」 これはイヤミのつもりなのだろうか。 「それについてどうこう言えるのは、やはりキラだけだと思うが?」 キラが『いやだ』といわないのに、何故、関係のない君達があれこれ文句を言ってくるのか。そう口にしながら、ギルバートは初めて視線を向ける。 「でなければ、ラウかな?」 彼はキラの保護者だ。だからあれこれ文句を言う権利はある。それでも、キラの希望を一方的につぶす権利はない。 「違うのかな、アスラン・ザラ君?」 それも理解できないうちは、君はまだまだ子供だと言うことだ。そうも付け加える。 「俺は!」 彼等くらいの年齢であれば、そう言われるのが一番嫌なことだ。実際、彼は即座に言い返そうとしてくる。もっとも、それが子供の証拠なのだが、と心の中で呟く。 「第一、ラクス様の傍にいなくていいのかね?」 彼女のパートナーは君だろう? と付け加える。それが政治的な理由で決められたものだとしても、完璧にこなす義務が彼にはある。 「このような場で、女性の面目を潰すような男は最低な存在だと言われても仕方がないと思うがね」 違うのかな、と問いかければ、アスランは言葉に詰まったようだ。 「でも、俺は……」 しかし、ここで食い下がってくる根性は認めてやるべきか。そう考えたときだ。 「……何で、ここにアスランがいるの?」 キラの声が耳に届いた。 |