心の中であれこれわだかまっているものがある。しかし、それを今日だけは棚上げにしておこうか。そう考える理由は目の前の少女にあった。
「……おかしく、ないですか?」
 真新しいワンピースドレスに身を包みながら、おずおずと彼女は問いかけてくる。
「似合っているよ」
 でも、首もとが少し寂しいかな……とギルバート付け加えた。
「そうですか?」
 どうしよう、と彼女は慌てたように呟く。
「そのまま、目をつぶって胸を張ってくれるかな?」
「……ギルさん?」
「内緒、だよ」
 直ぐにわかるから。優しい声音でそう付け加えれば、彼女は素直に目を閉じた。
 それを確認してから、ポケットからケースを取り出す。
 キラの背後に移動しながら、中身を手にする。そして、それをそっとキラの首元にかける。
「目を開けてもいいよ?」
 次の瞬間、ぱちりと音を立てるかのようにキラは瞳を開いた。その視線の先には、丁度姿見がある。
「……ギルさん?」
 そこに写った自分の姿を見て、彼女は驚いたように目を丸くする。
 その表情のままギルバートを振り仰いだ。
「少し早いけどね。卒業のお祝いだよ」
 これから公式の席にでることもあるだろう。だから、それにふさわしいアクセサリーもそろえていかないとね……と笑みを深めた。
「……でも、これ、本物のパールですよね?」
 おそるおそるというようにキラは口にする。
「それなら、キラがおばあさんになっても使えるよ」
 そう考えれば安いものだ。
「私だけがお金を出したわけではないからね」
 ラウとカナードも一緒に選んだのだ。しかも、カナードはオーブにいる者達から頼まれている。だから、みんなからのお祝いだと思えばいい。そうも付け加えた。
「……わかりました」
 言葉とともに、キラは指先でそっとその粒を撫でる。
「そう言えば、兄さん達は?」
 レイは一足先に学校に行っているだろうけれども、どうして彼等はここにいないのだろうか。
「二人とも、時間までには会場に来るそうだよ」
 何か、あれこれ用意しなければならないものがあるそうだ。
 きっと、あれこれキラの歓心を買えそうなプレゼントを探しに行ったのだろう。しかし、それはキラに教えない方がいい。
「それよりも、そろそろ出かけないと、間に合わなくなるよ」
 言葉とともに、ギルバートは時計を指さす。
「あ、本当だ!」
 そこに表示されている文字を見て、キラは慌てたように叫ぶ。
「では、出かけましょうか?」
 お姫様、と笑いながら彼女をエスコートするために手を差し出す。
「ギルさん?」
「今日の私は、君のエスコート役だからね」
 だから、最初からきちんとね……と付け加える。
「それとも、いやかな?」
「そんなことはないです」
 嬉しいです、とキラは口にした。
「では、改めて。ご一緒しましょう」
 この言葉に、今度は素直に手を重ねてくれる。そんな彼女に、ギルバートは満面の笑みを向けた。






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