しかし、評議会ビルに勤めている人間だけで二桁を超えるブルーコスモス関係者が紛れ込んでいたとは思わなかった。
「……一掃できたと喜ぶべきか。それとも、余計な仕事が増えたと嘆くべきか……」
 どちらにしても、このごたごたはしばらく片づかないだろう。
 そう考えて、ギルバートがため息をついたときだ。
「何、ため息をついているんだ?」
 そんな彼に、こう問いかける声が届く。
「いや……どうしてここまであの子に執着したのか。それがわからなくてね」
 本当は知っている。だが、それを他のものに悟られるわけにはいかない。そう考えながら言葉を口にする。
「ラクス様達と親しいから、ではないか?」
 即座にこう言い返された。
「だが、あくまで子供同士の付き合いだよ?」
 もっとも、キラとラクスの友情は大人になっても変わらないのではないか。
 だが、今のラクスでは、プラントの政治まで介入できないはず。そうも付け加える。
「少なくとも、君とクルーゼ隊長の動きは封じられるだろうね」
 ギルバートの影響力はさほど大きくはない。だが、無視できないものだ。
 そして、クルーゼが動けないとなると、ザフトの戦力は大きく削がれる。
「何よりも、あの子は女性だから、ね」
 そちらの方が大きいのではないか。そう言って彼は顔をしかめた。
「プラント本国では珍しいが、地球や月では十代から二十代の女性が行方不明になる事件が頻発しているそうだ」
 何を目的にしているのか、想像に難くない。だからこそ、気に入らないのだが……と吐き捨てるように付け加える。
「確かに、それは考えたくもないことだね」
 同時に、どうしてオーブが動かないのか。そんなことも考える。
 おそらく、コーディネイター擁護派のアスハとサハクの勢力が衰えているのだろう。
 しかし、それをどうこうできる権利はプラントにはない。その事実を歯がゆく思っているのは、自分ではなくまだオーブに籍があるカナードや、首長の中で唯一のコーディネイターであるサハクの双子なのだろう。
「しかし、卒業式前に片づいてくれてよかったよ」
 色々と楽しみにしているようだから、とギルバートは話をすり替える。
「問題は……この調子では翌日、どれだけ仕事がたまっているか、ということかな」
 当日は、当然、休暇を取らせてもらうが……と付け加えた。
「……それはやめて欲しいが……やめろと言えないからね」
 流石に、卒業式に保護者がいかないのでは何を言われるかわからない。苦笑と共に彼はそう告げる。
「すまないな……」
「何。いずれ、こちらが同じ立場になるよ」
 その時にはしっかりと仕事を肩代わりして貰おう。そう言って彼は笑う。
「その時は任されるよ」
 もっとも、相手を探すことのほうが先決かもしれないが……とさりげなく付け加える。
「大丈夫! 相手は見つかったんだ」
 後はなんとか口説き落とすだけだ! と彼は続けた。
「それはおめでとう。頑張ってくれたまえ」
 出会いはどうであれ、幸せになろうとする気持ちがあればそれで十分だろう。そう言って微笑む。
「もちろんだよ。とりあえず、何が好きなのか、それからリサーチしないといけないけどな」
 浮かれている相手の様子に、笑みが深まっていく。
 しかし、それは直ぐに消えた。
「その前に、この書類の山をなんとかしなければいけないがな」
 少しでも多く処理しておかなければ、後々困ることになる。
「もっとも、我々はこれだけですんでいるからいいのかもしれないが……」
 システム関係の部署は、これからいったい何日泊まり込むことになるのかわからないと言っていた。
「……まぁ……流石にここには連中の関係者とおぼしき人間は入れないからな」
 いられたら困る、と彼もまた表情を引き締める。
「しかし、どこにしてもそれなりに重要な部門に入り込めた、ということは……誰か裏で手をひいているという可能性は、ないか」
 あったら困る。そう続けて彼は笑う。
「そうだな」
 口ではそう答えながらも、あり得ない話ではない……とギルバートは心の中で呟いていた。






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