それぞれの保護者に連絡を取り、本人達を引き取って貰ったときには、もう、日付が変わりそうになっていた。
 はっきり言って、そちらの方が疲れたような気がするのは錯覚ではないだろう。
「キラ」
 そう考えているギルバートの耳に、カナードが彼女に呼びかけている声が届いた。
「なぁに?」
 それに、キラは聞き返している。
「お前は、あの人がラウに勝てると思っているのか?」
 どう考えても、彼は戦闘向きではないだろう、と言外に付け加えられたのがわかった。それは事実だから、とギルバートはひっそり苦笑を浮かべる。
「……別に、力で勝てなくてもいいんでしょ?」
 しかし、キラはこう言い返す。
「ミナ様は力では兄さん達に勝てないけど、でも、兄さん達はミナ様に勝てないじゃない」
 この私的に、カナードがぐっと言葉に詰まっている。
「……否定できませんね」
 ぼそっとレイが呟くように口にした。
「そうだな」
 彼女に勝てるとすれば、それこそウズミぐらいなものだろう。ラウもそう言って頷いてみせる。
「それと同じで、ギルさんもよく、ラウ兄さんをやりこめているよ」
 言葉で、とキラはさらに付け加えた。
「……どこで見られたのかな」
 忌々しいが、否定できない……とラウはため息混じりに口にする。
「最近は気をつけていたのだがね」
 君のために、と付け加えたのは、半分イヤミだ。
「君の本性を知られないためではなかったのかな?」
 それに彼はこう言い返してくる。
「別に、私は彼女の前で本性を隠したつもりはないよ」
 それでも彼女は慕ってくれているのだ。こう言って胸を張る。
「……まったく……こんな悪い男に騙されて」
 あのバカよりはましだが、と付け加えられたのはよいことなのだろうか。
 そんなことを考えていたときだ。
「彼は確かに尊敬できる面はある。だが、年齢を考えろ!」
 付き合ったのはキラ一人ではないのだぞ、とカナードが大声を出している。
「今だって、付き合っている人間がいないとどうして言い切れる!」
 その言葉に、ギルバートは少しだけ憮然とした表情を作った。
 四半世紀以上生きている以上、そう言うことがなかったとは言わない。だが、キラ達を引き取ってからは、保護者としての責任もあって、その手のことからは遠ざかっていた。
 精神的なものなのかはわからないが、実際に、その手の欲求は自力で解消できないほどではない。

「それは、兄さん達だって同じでしょう?」
 しかし、キラの口からこんなセリフが出てくると別の意味で衝撃的だ。
「キラ?」
 何を、とカナードが慌て出す。
「ギナ様が教えてくださったもの」
 色々と、とキラは平然と言い返している。
「ミナ様も、男の人ならそう言うことがあっても仕方がないっておっしゃってたし……結婚してからそう言うことをするようなバカは別だが、それまでは目をつぶっておくのが 女性として賢い生き方だって、そうもおっしゃっていたよ?」
 メールで、と彼女は言葉を重ねた。
「……意味を理解していると思うかね?」
 キラは、あれを……とギルバートはラウに問いかける。
「半分もわかっていないと思うのだが……どちらにしても、あの双子に文句の一つも言ってやらなければ……」
 怒りを押し殺せない口調で彼はこう告げた。
「もっとも、おかげで今日のことは当面ごまかせるようだがね」
 しかし、それは結果論だ。余計なことを吹き込んでくれたことは許し難い。そう言う彼にギルバートも同意を示す。
「今回のことが解決したら、それなりに手を貸すよ」
 だから、こう告げた。






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