さりげないが、大がかりな捕り物を終えてギルバート達が戻って来たのは夕食にぎりぎり間に合うかどうか、という時間だった。
「……何故、彼等がここに?」
 しかも、何故か床に座り込んでいる。
 それはどうしてなのか。
「……ラウ?」
 その理由を推測するよりも聞いた方が早い。そう判断をして彼に問いかける。
「ちょっと稽古をつけてやっただけだ」
 そう言ってラウは笑い返す。
「何の約束もなく強引に押しかけてきた者達には、それでも優しい対応だと思うぞ」
 まったく、とあきれたように付け加えた。しかし、その声音には怒りが滲んでいる。
 それは当然だろう。
 キラ本人にはともかく、それ以外の者達には『彼女は出かけている』と伝えるように命じてあった。
 当然、訪問者にも同じ対応がされているはず。
 それなのに、彼等はここにいる。
「……私は、あなた方の訪問を聞かされておりませんが?」
 どうしてここにいるのでしょうか、アスラン・ザラ……と手近にいた相手に問いかける。
「……何故、あなたの、許可が、必要なの、ですか?」
 逆に彼はこう言い返してくる。
「ラクスや、ルナは……自由に、訪問できると、聞いていますが」
 さらに付け加えられた言葉に思わずあきれたくなった。
「彼女たちは女性で、あなたは男性ですが?」
 それを同列に扱えるか、と思わずため息をつく。
「いくら私でも、キラの元に男性が訪問してくるときには、誰かが立ち会う必要があると思っていますよ」
 そちらでへたばっているイザークやディアッカ、それにニコルならまだしも、アスランはラクスと婚約が決まっているだろう。
 そんな人間とキラを二人だけにすれば、あちらこちらに多大な混乱を与えることになるではないか。
「俺は……認めていません……」
 ラクスとの婚約は、と彼は吐き捨てるように言った。
 しかし、それに耳を貸すつもりはない。彼がどう考えようと、政治的な意図も含まれている二人の婚約は翻ることはないのだ。当然、彼がキラを選ぶことは許されない。
「それで、どうしてこうなったのかな?」
 君が稽古をつけたのは聞いたが、どのような経過でそうなったのだろう。それが気にかかる。
「何。彼等がキラに好みの男性像を聞いて、あの子が私と互角に戦える人間が最低条件だ、と言い返しただけだよ」
 それで、彼等が自分に勝負を挑んできたのだ……とラウがため息とともに付け加えた。
「それで、たたきのめした、と」
 実力差があると知っているのに、と言い返す。
「一応、ハンデはつけたよ?」
 自分はこの区画からでなかったし、と言いながら、足元の大理石のタイルを指さす。それに、三人いっぺんにかかってきてもかまわないとも言った。そう続けた。
「それでも勝てないのなら、彼等の鍛錬が足りないと言うことではないかな?」
 レイでも、そのハンデをつければ互角に戦える。ラウのその言葉に、その場にいた者達は驚いたようにレイを見つめた。
「当然のことです」
 それにレイは何でもないというように言い返す。
「ということで、君達では今のところ、役者不足、ということだね」
 高らかに宣言をするラウに、四人は悔しそうに視線を落とした。
 しかし、とギルバートは思う。ならば、自分はどうなのだろうか。
「後でキラに聞いてみるか」
 小さな声でそう呟く。
「……お茶、淹れたけど、飲む?」
 それにタイミングを合わせるかのように、キラが顔を出す。
「あぁ、貰おう」
 そんな彼女に、ラウはとろけるような笑みを浮かべる。
「ギルさんとカナード兄さん達の分もあるから」
 さりげなく付け加えられた言葉に、ギルバートもまた微笑みを返した。






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