ウィッグだけではなく、ラクスがしてくれたメイクで遠目にはキラに見える。そんなレイをつれて、ギルバート達はまた、車へと乗り込んだ。
 しかし、ドライバーは違う。
 服を変えたバルトフェルドだ。
「とりあえず、適切な距離で人員を配置してある」
 後は、あちらが引っかかってくれるのを待つだけだ。そう言いながら、彼はハンドルを握った。
「お手数をおかけします」
 ラウがそれをしていたとは聞いていない。ということは、事前に渡した計画書からそれを判断したのは彼なのだろう。
「いや。久々にやりがいがある仕事だったよ」
 最近はデスクワークが多くてね……と苦笑を滲ませながら彼は口にする。
「気分転換は、何にでも必要だろう?」
 さらにこう付け加えた。
「……でも、バルトフェルド隊長は、ラウがお嫌いなんですよね?」
 レイがおずおずと問いかける。
「嫌い、というのとは違うね。考え方が違うから、あまりお近づきになりたくない、という方が正しいかな?」
 だが、それでも彼の技量は認めざるを得ない。
「だから、必要なら協力することはやぶさかではない、と言ったところかな」
 何よりも、女性や子供を守るのは男として当然のことだろう。磊落な口調でそう締めくくる彼に、レイは納得したようだ。
「変なことをお聞きして、申し訳ありません」
「何。気にしなくていいよ」
 保護者と不仲な人間を信用できない。その気持ちもよくわかる。そう言ってバルトフェルドはさらに笑みを深める。
「彼自身であれば、自分の身に降りかかる火の粉は自分で振り払え、と言うだろうがね」
 ザフトの隊長職にあるものが、それが出来ないはずはない。
 その言葉に、カナードが小さく頷いている。彼もその程度のことをラウが出来ないはずがない、と思っているのだろう。
「だが、君達は彼ではないならね」
 そして、まだまだ学ばなければいけないことがある子供だ。
 同時に、キラはラクスの大切友人だ……と言われては、事情を知っている大人としては苦笑を禁じ得ない。
「……と、言うとことで、ちょっと揺れるぞ」
 何かに気が付いたのだろう。彼はこう言ってくる。
「振り向くな、レイ」
 反射的に確認しようとしたレイを、カナードが制止した。
「……見覚えがある奴が乗り込んでいる」
 何故、と問いかけるよりも先に彼は説明の言葉を口にする。
「おそらく、ごまかされてくれているのだ……とは思うが、お前の顔をしげしげと見られればばれる可能性がある」
 あいつは、昔、メンデルに出入りをしていた人間だ。その言葉だけでレイには状況が飲み込めたのか。
「……はい……」
 そう言って、座り直す。
「しかし、あいつがあちら側に付いているとは……厄介だな」
 こちらの事情がどこまでばれているか、とカナートが眉をひそめる。
「捕まえて確認するのが、一番手っ取り早いだろうね」
 さて、それならばこちらも本格的に動き出すか。そう言って、バルトフェルドは思いきりハンドルを切った。
 直ぐ後ろを走っていたエレカが急ブレーキをかける。
 もっとも、それもこちらの人間なのだろう。わざとらしいタイミングで相手の車の前で止まる。
「さて……あれについてはあちらに任せておけばいいか」
 警察の方には手を回してあるのだろう? と問いかけられて、ギルバートは頷く。
「なら、他の連中をおびき寄せるとするか」
 楽しいね、と笑えるのは彼の実力があってのことだろう。
「最後に一発ぐらいは意趣返しをさせてくれ」
 そんな彼に向かって、カナードがこう告げる。
「まぁ、その位は構わないだろう」
 そう言ってバルトフェルドはまた笑い声を漏らした。






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最遊釈厄伝