結局、ラウは自分が残ることで妥協することに決めたらしい。
 もっとも、それは自分にとって諸刃の剣だと言うことをギルバートはわかっていた。
「私がいない間に、キラに何を吹き込んでくれるか、わからないからね」
 そのせいで、キラが自分から離れていくとは思えない。
 だが、多少、疑念の目を向けられるのは我慢しなければいけないだろう。
「あれこれ、後ろめたい行動を取っていたことがあるのも、否定はしないからね」
 もちろん、それはキラに対してではない。黙っていたことはあっても、嘘を付いたことはないつもりなのだ。
 今回のことも、あえて話していないだけだとギルバートは考えている。
「でも、それはギルの立場では仕方がないことでしょう」
 その呟きを耳にしたのか。レイがこう言ってきた。
「珍しいね。慰めてくれるのかな?」
 普段はイヤミしか言わないのに、と言外に付け加えた。そうすれば、彼は少しだけ不機嫌さを表情に滲ませる。
「姉さんのことをのぞけば、俺はギルを尊敬していますよ。ラウの次ぐらいに」
 それを気付いてもらえなかったとは……と彼はため息とともに付け加えた。
「あぁ、すまないね」
 ここしばらくイヤミしか聞いていないから……とはあえて言わない。
「流石に、いらついていたようだ」
 そう言いながらバックミラーへ視線を向ける。
「あれか」
 それに言葉を返してきたのは隣に座っているレイではない。助手席にいるカナードだ。
「門を出たときからずっと付いてきているからね」
 もちろん、あれが陽動だという可能性はある。しかし、先ほどからちらちらと見えるバカ面が気に入らない。ギルバートはそう続ける。
「ザフトの軍人ではないのですか?」
 レイがこう問いかけてきた。
「違うね」
 彼等とはラクスのところで合流をすることになっている。だから、自分たちはわざと人通りが多いルートを使っているのだ。そう続ける。
「ここで何かをすれば、目立つなどというものではないからね」
 あちらは自分で自分の首を絞めることになるだろう。それがわかっているから、ただ黙って付いてきているだけなのではないか。
「あるいは、君が《キラ》ではないと疑っているのかもしれないね」
 いや、キラだという確証がもてないのかもしれない。だからこそ、自分たちの目的地を確認しようとしているのではないか。
「あちらも、そろそろ焦れてきていると言うことか」
 後二年もすれば、キラはプラントの法律で《成人》と見なされる年齢になる。そうなれば、オーブ側が何を言おうとも、自分自身の意志であれこれ決めることが出来るだろう。
 そうなれば、二度とオーブに戻ってこないかもしれない。
 プラントでは大がかりなことは出来ない、とも考えているのではないだろうか。
「今までの行動でも、十分大がかりだと思うがね」
 彼等とは考え方が根本的に違うようだね、とギルバートはため息をつく。
「人一人さらう程度なら何と言うことではない。そう思っているんだろう」
 プラントも、その程度で大騒ぎしないと信じているのではないか。カナードがそう言い返してくる。
「甘いね」
 キラはもう、上層部に重要な人物だと認識されているのだ。その姿がなくなれば、騒ぎ出すのは一人や二人ではない。
「ラクスさまお一人だけでも、どれだけの騒動になるか……私としては考えたくないよ」
 それに、自分とラウの人脈をあわせただけでもかなりの人数を動員できるのではないか。
「今回だって、ラクスさまは二つ返事で協力してくださったしね」
 その意味がわからないのであれば、体で覚えさせるだけだ。
「そうですね」
 さっさといなくなって欲しい。
 そうしなければ、もっと厄介な問題に取りかかれない。レイはこう言って頷く。
「大本を叩かないと無理なんだろうがな」
 それをどうするかも、後で考えなければいけないか。カナードがこう言ったときだ。
 まるでタイミングを合わせるかのようにクライン家の門が目の前に広がった。






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