周囲の者も、ギルバートの指示通り、当日のことは内緒にしているからだろうか。キラの意識はそちらの方へ向けられているようだ。
「とりあえず、一安心だね」
 これで、しばらくはごまかされてくれるだろう。
 そう口にすればラウも苦笑を返してくる。
「まったく……君の悪知恵が役に立つとは思わなかったよ」
 どこまで本気で言っているのか。そう思わずにはいられない。
「ほめられた、と受け取っておくよ」
 それでも、こう言ったのは半分イヤミだ。もっとも、何と言われようとも、キラに今現在起きていることがばれなければいい。そう考えていることも事実だ。
「もちろん、ほめているのだよ」
 おかげで、レイも動きやすくなった。そう言ってラウは目を細める。
「しかし、いい加減、片を付けたいものだね」
 でなければ、おめでたい日に不本意な事態が襲いかかってきそうだ。
 その予想が当たればキラが可愛そうなことになる。
「しかし、未だにしっぽがつかめないのだよ」
 目星はついているのだが、相手も必死なようでね……とラウはため息をつく。
「向こうにしても、それだけ本気だ、ということなのかな」
「だろうね」
 キラに関わって、それなりの数の構成員が逮捕されている。連中にしてみれば、これ以上失いたくはないはずだ。
 それが、中枢に近いものであればなおさらだろう。
 だが、とギルバートは心の中で呟く。
 それと同じくらい《キラ》の存在も認められないのではないか。
 今のところは、そのどちらも選べない。しかし、一度、判断の天秤が大きく傾いたらどうなるかわからないだろう。
 キラにしても、また何度も同じ状況になるのは不本意なはずだ。
「いっそのこと、おびき出して一網打尽にでもしたい気分だよ」
 ため息とともにラウはこう告げる。
「しかし、迂闊な方法は使えないだろうね」
 過去に一度、その手段を使われている。その事実を彼等も忘れてはいないだろう。
「ラクスさまに協力して頂くのは無理、ということだろうね」
 だからといって、無視して進めることは出来ないが。そう言ってギルバートは苦笑を浮かべた。
「かといって、ニコル君では二番煎じだしね」
 おびき出すにしても、他の罠を考えなければいけないだろう。
「……キラを巻き込むのは不本意なのだが……」
 餌は必要だ。
 そして、彼女以上にそれにふさわしい存在はない。
「カナードもいる、今が好機なのだろうが……」
 どのような舞台を整えるか。それも問題だ。ラウもまた、そう言って頷いてみせる。
「そう言えば」
 ふっと思い出した……と言うようにギルバートは口を開く。
「キラが買い物に行きたいと言っていたが……」
 まだまだ、当分無理そうだね……と付け加える。
「そうだな。また誰かさされたら、あの子が辛い思いをしてしまう」
 ラウも直ぐに頷いて見せた。
「……待てよ?」
 だが、直ぐに何か思いついたという表情を作る。
「ふむ……これならば、うまくいくかもしれないね……」
 そして、こんな呟きを漏らす。
「だとするなら、誰が適任かな」
 カナードでは背が高すぎる。そうなれば、レイだろうか。さらに彼はこう付け加えた。
「他に数名、護衛の者を手配できれば確実だろうが……」
 問題は、キラをどうやってごまかすか、だ。
「身代わりを使って罠をしかけるつもりかい?」
「あぁ。それが一番手っ取り早い」
 しかし、確実に《キラ》と思わせるにはどうすればいいのか。そう言ってラウは考え込むような表情を作った。
「それなら、ラクスさまにご協力を扇ぐのが一番いいだろうね」
 口実は、とさらに言葉を重ねる。その内容を聞き終わった瞬間、ラウは微苦笑を浮かべる。
「やはり、君はある意味、敵に回したくないタイプの人間だよ」
 そして、こういう。
「ほめ言葉として受け取っておくよ」
 それにギルバートは微笑みを返した。






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