そんな風に、日常を過ごしていた。といっても、実際に行動をするのはラウやカナードで、自分は自宅でキラの相手をしている方が多かったのだが、とギルバートは笑う。 「おかげで、ケガも全快したしね」 キラの卒業式に間に合ったよ、と付け加えれば、キラはほっとしたような表情で頷いて見せた。 「まさか、精神力で傷も治せるとは、ね」 あきれたように口にしたのは、もちろんラウだ。 「その気になれば、あの世からでも帰ってきそうですね」 苦笑と共にレイが口にする。 「殺しても死にそうにないしな」 カナードがこう締めくくった。 「兄さん達!」 それが気に入らなかったのだろう。キラが怒ったような声音で彼等に呼びかける。 「いや。そこまでするとは、見事だ……と言いたいだけだよ」 フォローのつもりなのか。ラウは柔らかな微笑みと共にこういった。 「……嘘つき」 しかし、キラは納得しない。それどころか、逆に彼に対する不信を深めたようだ。 「そんな兄さん達は、嫌い」 さらに追い打ちをかけるように、彼女はこういった。 「キラ……」 呆然とした表情のまま、ラウが彼女の名を呼ぶ。しかし、キラは彼に視線を向けようともしない。 「ギルさん、本当によかったです」 代わりに、満面の笑みで彼を見上げてくる。 「そう言ってくれて嬉しいよ」 ギルバートも彼等を無視して言葉を返す。 「これでダンスの練習も出来るね」 確か、卒業パーティでは踊らなければいけなかったはずだ。そう言えば、彼女は小さく頷いてみせる。 「一応、ラクスやルナ達に教わったのですが……」 でも、まだ考えないと動けないのだ、と彼女は続けた。 「私のリハビリにも丁度いいから、午後から練習しようか」 何度も繰り返していれば、自然に身に付くよ……と言い返す。 「それに、そろそろ当日のドレスが出来てくるのではなかったかな?」 おそろいにしたというアクセサリーも届くのだろう? と付け加えれば、キラはさらに笑みを深めた。 「アクセサリーは綺麗です!」 ラクスが懇意にしているショップで作ってもらったのだが、と彼女は口にした。とてもよくできているのだ、とも。 「それはよかったね」 では、まずそれを見せて貰わないと……といいながら、ギルバートはキラの背中にそっと手を添える。 そのまま、促すように少し力をこめれば、キラは素直に歩き出す。 彼女と共に足を動かしながら、さりげなく視線をラウ達へと向けた。 それだけで、彼等には意図わかったのだろう。ため息とともに頷いている。 後は任せておいて大丈夫だろう。そう思って、その場を後にした。 リビングから出たときだ。 「……ギルさん……」 不意にキラが呼びかけてくる。 「何かな?」 「……みんな、何か僕に隠していませんか?」 家の人だけではなく、ラクス達の様子も何かが引っかかるのだ。彼女はそう告げる。 「あぁ、隠していることはあるよ」 でも、それは教えられない。ギルバートは笑みを深めながら言い返した。 「ギルさん?」 何で、といいながらキラは頬をふくらませる。 「大丈夫。危ないことではないからね。でも、君が内容を知ってしまうと面白くないことだよ」 だから、当日まで内緒だ……とギルバートは言い返す。 「本当に、危ないことはしないんですね?」 キラは不安そうに問いかけてくる。 「少なくとも、その件ではね」 この前のカナードのようなことがあるから、それ以外では何も言えない。そう続ければ、キラはとりあえず納得してくれたようだ。 「わかりました」 小さく頷いてみせる。 「では、後は楽しいことを考えようか」 そう言って、ギルバートはキラの髪をそっと撫でた。 |