キラがいてくれれば、カナードの存在もさほど、気にならない。
 同時に、何もすることがなくて、逆に辛い……と言う気持ちを抱かなくてもすむ。
 だが、カナードがいなければもっといいのに、と考えなかったかと言われれば嘘になる。もっとも、相手の方も同じようなことを考えていたのは間違いないだろう。
 実際、キラがいなくなった瞬間、気まずい空気がその場に流れる。
 それでも、淡々とお互いが興味を持っている本に目を通しているから耐えられないほどではない。
「……おい」
 しかし、相手が口を開けば、また話は別だ。
「私はラウよりも年上なのだがね」
 ため息とともにこう言い返す。
「細かいことは気にするな。ギナ相手でも、こんなものだ」
 ミナでは流石に出来ないが。そう言ってカナードは笑う。それだけで、サハクの双子の性格が想像できるような気がするのは錯覚ではない。
「それよりも、だ」
 ちょっと確認をしたいのだが、と彼は構わずに言葉を重ねる。
「プラントでは個人の居場所を特定できるようになっているんだよな?」
「不可能ではないがね。滅多なことでは使われないシステムだね」
 プラントという《国》が成立する前に作られたシステムだ。だから、新しいプラントでは使えない可能性が高い。
 だが、ディセンベルとここアプリリウスにはもちろん、そのシステムは存在している。
「……滅多なことというと、逆に言えば、どういうときに誰ならば使えるんだ?」
 確認しておかないと、後々困るような気がするが……と彼は続けた。
「私が評議員議員になってから使われたことはないからね……ちょっと待ってくれるかな?」
 今、調べる。そう言いながらギルバートは端末を引き寄せた。
 その程度のことは自宅からでも出来る。しかし、と思いながらギルバートは口を開く。
「わかっていると思うが……キラと執事には内緒にしてくれるかね?」
 仕事をしていると思われては、後々厄介だ。ついでに、止めなかったカナードにも怒りが向けられるだろう。そう続ける。
「わかっている」
 自分が頼んだことだ。そう言ってカナードは頷いて見せた。
「俺だって、キラを怒らせたいわけじゃないからな」
 むしろ、怒らせたときが厄介だ。そんなことも彼は続ける。
「あの子が怒るなんて、考えられないね」
 プラントに来てから、キラが怒ったことがあっただろうか。そう呟きながら、キーボードを叩く。
「……あれも大人になったと言うことか?」
 それとも、猫をかぶっているのか……とカナードはカナードで呟いている。
「あの子が頑固なのは否定しないがね」
 一度決めたことは必ずやり遂げるし、そのために必要であれば、いくらでも他人を説得して歩くが……とそうも付け加えた。
「で、あんたはそれに真面目に付き合っていると」
「当然だろう?」
 あの子にもきちんとした主張がある。それを聞いて、間違っていたら正してやるのが大人の役目ではないか。何よりも、ギルバートは微笑む。
「あの子の視点は面白いからね。こちらが勉強させられることもある」
 それに、自分がキラの話を聞いているのが楽しいのだ……と心の中だけで付け加えた。
「……なるほど……」
 意味ありげな表情で彼は小さく呟いている。
 それについてはあえて何も聞き返さない。代わりに、データーベースの検索を進めた。
「あぁ、これだね」
 やがて、ある文面に行き着く。
「本当に古い時代に成立したものだね、これは」
 内容に目を通しながらギルバートは口にした。
「プラント製造中や修理中に行方がわからなくなった者達を探すため、というのが本来の目的らしいよ」
 だから、安全性が増した今では使われなくなったのだろう。
「システムを使うには、評議員議員かザフトの隊長クラスの人間二人以上の決済が必要で、なおかつ彼等の立ち会いの下で、管理局の人間が行うことになっているね」
 これでいいのか、と問いかければカナードは頷いて見せる。
「ってことは、やっぱりラウ兄さんが帰ってからの話だな」
 彼の言葉に、ギルバートはさりげなく時間を確認した。
「そろそろ帰ってくるとは思うがね」
 これ以上遅くなっては、キラ達と夕食を共にすることは出来ない。だから、意地でも帰ってくるのではないか。
「数少ない楽しみだ、ということで妥協するしかないな」
 笑いながら、カナードも同意をして見せた。







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