「そんなシステムがあったのか」 知らなかった、と話を聞き終わったラウは呟く。 「……君が知らなかった、ということは……最近、隊長クラスに昇格した人々は知らない可能性が高いわけだね」 ならば、どうして彼が知っていたのだろうか。そう思いながらカナードを見つめる。 「暇だったからな。沿革史を呼んでいただけだ」 そう言いながら、カナードは二人の前に分厚い書籍を置く。それは、ギルバートの父が以前入手していたものだ。 しかし、それが紙の書籍であるという理由で、彼自身は紐解いたことがない。 それを、カナードは暇に飽かせて読破してしまったようだ。 「連中が、どうしてこうもピンポイントにキラの行く先に姿を現すのか。それが知りたかったんだが……」 これを使えば可能なのではないか。 逆に言えば、それが出来る立場の人間にブルーコスモス関係者がいると言うことになる。 「だが、それならば対象者をかなり絞り込めるな」 もっとも、あまり嬉しくないが、とラウはため息とともに付け加える。 「それでも、キラを外出させない時間を、少しでも減らすことが出来るのではないかね?」 あの子に不自由をかける時間が少ない方がいいだろう。ギルバートはそう言う。 「何よりも、卒業式が目前だからね」 キラもあれこれしたいことがあるはずだ。だが、自分のケガを理由に行動を制限しているだろう、とため息とともに告げる。 「別に、閉じ込めてはいないぞ」 自分が付いて歩いていた、とカナードは言い返す。 「しかし、君は今、外出禁止中だからね」 即座にラウが言葉を口にする。それに、彼は悔しげに唇を噛んだ。 「だからといって、レイでは役者不足だからね」 年齢にしては使える方だが、まだまだ、自分の身を守るだけで精一杯のようだし……とカナードを綺麗に無視してラウは言葉を重ねる。 「そうなると、やはりさっさと片を付けなければいけないだろうね」 しかし、こうなると確実に信用できる相手でなければ協力を求めることは難しいだろうね……と彼はさらに続けた。 「ラクスさまに相談してみるかね?」 彼女の人脈を頼ることになるが、とギルバートは問いかける。 「あの方の知り合いであれば、確実に信用できるだろう」 そして、キラが関わっている以上『否』とは言われないはずだ。 「何よりも……蚊帳の外においておく方が怖いと思うのだよ」 彼女を、と付け加えればラウが複雑な表情のまま頷いてみせる。彼もまた《ラクス・クライン》の影響力の大きさを実感しているのだろう。 「だが、そいつもキラと同じ年なんだろう?」 本人を直接知らないカナードだけが、訳がわからないというように首をかしげている。 「……カガリ並みの影響力と破壊力を持った方だ、と思えばいい」 もっとも、力の行使の方法は真逆だが……ラウが口にした。 「……なるほど……それは手強そうな相手だ」 その名前には聞き覚えがある。しかし、どのような人物かなのかまではわからない。 だが、カナードが納得をしている所からして、オーブではそれなりに有名な相手なのだろう。あるいは、アスラン達のように成人していないから表に出ていないだけなのかもしれない。 「しかも、ラクスさまの場合、外堀を埋めてくるからね。逃げようがない」 そう言った点で言えば、実に侮りがたい方だ……とラウはさらに言葉を重ねる。 「あの大馬鹿者が二度とプラントの地に足を踏み入れられないのは、あの方の手助けがあってのことだよ」 そう言う点では、アスラン達と違って敵に回してはいけない相手だ。そうも言い切った。 「まぁ、ご本人に会ってみたいのなら、キラに頼むのだね」 彼女が声をかければ、時間を作って顔を出してくれるだろう。そう言ってギルバートは笑う。 「実際にお会いすれば、どれだけ凄い方なのか、実感できると思うよ」 見かけだけで判断できないような彼女のすごさを、とさらに続ける。 「あの子にとっても、気分転換になるかもしれないね」 ラウも意味ありげな笑みと共に頷いて見せた。 「では、後で私から提案しておこう」 彼がここまで言ったのは、カナードに《ラクス・クライン》という人物を引きあわせたいからかもしれない。 「そうだね。その方がいいかな」 どちらにしても、キラの友人と顔見知りになっておくことは悪いことではないだろう。そう思って、ギルバートも頷いて見せた。 |