翌日になれば、麻酔がきれてきたらしい。痛みがよみがえってきた。しかし、この痛みがあるからこそ生きていると実感が出来るのだ、と考えれば耐えられないことはない。
「ギルさん、大丈夫ですか?」
 さらに、キラの顔を見ていればなおさらだ。
「あぁ、大丈夫だよ。それよりも、怖い思いをさせてしまったね」
 こう言いながら、そっと手を持ち上げる。そして、そのまま彼女の髪の毛を撫でた。
 本当は、それだけの仕草でも傷が引きつれて痛む。しかし、それをごまかすことは造作でもないことだ。
「僕は……大丈夫です」
 キラは微笑みながらこう言い返してくる。
「よかった。女性を守るのは、男として当然だからね」
 男の場合、体に傷が残っても何とも思わないが、女性ではそういうわけにはいかない。そう言って笑みを深める。
「ギルさん……」
 そう言う問題ではないのではないか。キラはそう言い返してきた。
「そう言う問題だよ。何なら、後でラウ達に聞いてごらん」
 彼等もきっと同じ答えを返すだろう。もっとも、アスラン達ではどうだろうか。だが、この状況でキラがそんなことを聞けるとすれば、ラウ達だけだと思える。だから、当面は大丈夫だろうと心の中で呟いた。
「それに、内臓は傷ついていないそうだからね。この調子なら、二・三日中に退院できると思うよ」
 少なくとも、この邪魔な点滴などからは解放されるだろう。
 だから、何も心配しなくていい。そう言って笑う。
「第一、君がそんなに気に病むことはないのだよ?」
 自分が選択した行動でこの結果になったのだから、とギルバートは付け加える。
「ギルさん」
「それよりも笑ってくれている方が嬉しいね」
 キラが笑っていてくれれば、それだけ早く、傷が治るような気がするしね……と告げた。
「何よりも、君のエスコート役は他の誰にも渡せないしね」
 くすり、と笑いながら言葉を重ねる。
「……それは……」
 何なんですか、とキラは呟く。
「重要なことだよ。少なくとも私にとっては、ね」
 そう言いながら、そっと指をキラの頬へと移動させた。
「君は私のお姫様、だからね」
 滑らかな肌の手触りに、自然と目が細められる。その表情のままこう囁けば、キラの頬が真っ赤に染まった。
「本当に、何を言っているんですか!」
 そのまま、彼女はこう叫ぶ。
「本当のことなんだけどね。君に信じてもらえないとは、哀しいな」
 真顔でそう告げる。次の瞬間、キラの頬がさらに赤くなった。
「だから、君が微笑んでいてくれると嬉しいよ」
 さらに言葉を重ねる。それに、キラは困ったようにうつむく。それでも彼女は小さく頷いてくれた。

 しかし、この事が一体どこから伝わったのだろうか。
「あの子に、あまり余計なことを言わないでくれるかね?」
 まったく、ちょっと気を抜くと余計なことをあの子に吹き込んでくれる……とラウはため息混じりに苦情を言ってくる。
「余計なことなど言った記憶はないが?」
 気弱になっていたから、本音は山ほど漏らしたような気はするが……とギルバートはため息をつく。
「麻酔が切れかかっていたせいか、ちょっと記憶が曖昧なのだよ」
 しらじらしいとは自分でもわかっている。それでもしれっとして言葉を口にした。
「……そう言うことにしておこうかね」
 あきれたようにラウはこう言う。
「それよりも別に話し合わなければいけないことがある。少なくとも、今は……だが」
 それに関してはあとでじっくりと話をしよう、と彼は言外に付け加える。
「何かわかったのかな?」
 とりあえず、それには気付かなかったふりをしてこう聞き返した。
「犯人が見つかったそうだよ……遺体で」
 どうやら、本気で使い捨てにされたようだね……とラウはため息をつく。
「コーディネイターも生きている人間なのに」
 しかし、これでこの地にキラの命を狙っている者がいると言うことが真実だとわかった……と彼は続けた。
「こうなると……君にだけは話しておくべきだろうね」
 何故、彼女が狙われるのかを。
 そう告げるラウの表情は、何故かものすごく辛そうに思えた。







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