キラとレイの歓待を受けたせいだろうか。カナードの表情がかなり軟らかくなっている。しかし、それでもキラがギルバートに甘える仕草を見せれば、本来のそれが顔を出すあたり、まだまだ未熟だと言うべきなのだろうか。
「君の時には、最初からポーカーフェイスを崩さなかったのにね」
 苦笑と共にラウへと視線を向ける。
「あの子にしては自制が効いている方だよ」
 本当は、もっと、感情の沸点が低い。そうラウは言い返してくる。
「キラとレイ以外には、素っ気ないもほどがあったね」
 自分に対しては敵意丸出しだった。それはきっと、ユウナのバカが傍にいたからだろう……と彼は笑う。
「しかし、それだけでは守れないと彼も悟ったのだろうね」
 キラ達を守るためにはまず自分が強くならなければいけない。そのためにはどうすればいいか。
「もっとも、そのころには私もこちらへ来ることが決まっていたからね」
 まだオーブにいたら、自分が彼を鍛え上げることが可能だったのではないか。
「だから、サハクの双子に頼んで来たのだよ」
 あの二人はかなりスパルタだから、それなりの実力は身につけていると思うが。そう言って彼は目を細める。
 血のつながりの有無にかかわらず、実はシスコン&ブラコンだったのか。
 確かに、その片鱗は今までも見せてはいた。しかし、それはキラとレイがまだ幼いからだ、と思っていた。
 しかし、どう見てもカナードは『幼い』といえる年齢ではない。
 それに、とギルバートは心の中で呟く。
 口に出して言うことは出来ないが、どう見てもカナートは『可愛い』といえるような性格ではないのではないか。それでもここまで自慢できるとは……やはり、兄バカなのだろう、彼は。
「しかも、サハクの居住地にはジャンク屋などの人々が出入りしているからね。人を見る目も養われている」
 そう言った点では厳しいぞ、とラウは笑った。
「……何が言いたいのかな?」
 だいたいわかるが、と心の中で付け加えながら、余裕の笑みを浮かべる。
「おやおや。人が悪いね」
 わかっていて聞いて来るとは、とラウはラウで笑みを深めた。
 さて、何と言い返してやろうか。
 そう考えたときだ。
「ギルさんと兄さんも、お茶、飲みます?」
 キラがこう問いかけてくる。
「もちろんだよ」
 キラが淹れてくれるのかな? と問いかければ、当然だというように頷いて見せた。
「じゃ、淹れてきますね」
 言葉とともに彼女は足取りも軽く部屋を出て行く。
 その姿が見えなくなったところで、カナードが立ち上がった。
「兄さん」
 彼の呼びかけに頷くラウの様子に、これはある意味、予定されていた行動なのではないか、と推測をする。
「キラに聞かせたくない話なのかな?」
「判断が速くて嬉しいよ」
 説明をする手間が省ける、とラウは頷きながら言い返してきた。
「どうやら、あの大馬鹿者がまた動き出したようでね」
 本人はここに来られないが、その手の者が既に潜入しているらしい。
「とりあえず、サハクの関係者も追いかけてきているが……まだ見つけられなくてね」
 だから、手っ取り早く彼女を守るために動ける人間を連れてきただけだ。
「カナードであれば、こちらのしがらみとは無縁でいられるからね」
 実力もある。
「……だが……」
 オーブの人間がプラントで動き回るのは色々と問題があるのではないか。
「一応、ジャンク屋ギルドの登録証は持っている」
 だから、ある程度は自由に動けるはずだ。そうカナードは言い返してくる。
「後は、君の許可があればいいだけではないかな?」
 さらにラウがたたみかけるように言葉を口にした。
「ギルなら、許可を出してくれますよね?」
 レイがとどめを刺してくれる。
「本当に君達は……」
 キラのこととなると一致団結してくれる、とため息とともに言い返す。
「お前だって似たようなものだろうが」
 低い笑いと共にラウが逆につっこんでくる。
「否定はしないよ。誰よりも大切な存在だからね」
 キラを守るためなら、多少の不利益は何と言うことはない。そう言って笑い返す。
「許可の方は、なんとかしてみよう」
 そう告げると同時に、キラが近づいてくる気配がした。







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