彼の訪問は本当に唐突だった。
「……カナード・バルス、だ」
 そう言う彼の容姿はキラのそれによく似ている。だが、受ける印象は真逆だと言っていい。
 キラが光ならば、彼はまさしく闇だ。それは髪の色や瞳の色だけから受けるものではないことは否定できないだろう。
 しかし、それはラウも同じだ。もっとも、あの男はきちんと隠しているが。
「君が、ラウ達の親戚、でいいのかな?」
 それが出来ないのは、彼がまだ若いからではないか。
 こんなことを考えながら、確認の言葉を口にする。
「見て、わからないのか?」
 それに彼はこう言い返して来た。
「顔だけならば、どうとでもできるだろう?」
 とりあえず、勝手な誤解をしてキラとレイを危険な目に遭わせるわけにはいかない。そう言い返す。
「……ラウはいいのか?」
 ふっと何かを考え込むような表情を作ると、カナードは問いかけてくる。
「彼は成人している大人で、しかも軍人だよ。自分の身に降りかかる火の粉ぐらい自分で振り払えるだろう」
 その程度も出来なければ、キラ達を守れるはずもないだろう。そう付け加えた。
「とりあえず、第一段階は合格としておいてやろう」
 気に入らないが、とカナードは呟く。
「まぁ、いい。まだ認めるかどうかは別問題だしな」
 そう言って彼は笑う。
「なるほど……君は試験官、ということかな?」
 キラの隣に立っていいかどうかの、とギルバートは言い返す。
「最終的に決めるのはあの子だがな」
 もっとも、とカナードはにらみつけてきた。
「貴様が邪な感情を捨てれば、全て解決すると思うが?」
 保護者としてであれば、キラの側にいても文句は言わない。そうも口にする。
「それこそ、無理だね」
 キラが『そうして欲しい』と言うならば、自分の気持ちを押し殺すことも苦ではないが。しかし、今のキラはそんなことを言っていない。だから、と付け加える。
「……まったく……」
 本当に気に入らない、とカナードは吐き捨てた。
「ユウナよりましなのはもちろん、それなりに尊敬できそうなのがもっと気に入らない」
 そうでなければ、実力行使ができるものを……と彼は付け加える。
「それは、多少は認められていると判断していいのかな?」
 だとしたら、嬉しいね……とギルバートは笑う。
「……本当に気に入らないな」
 そう言うところが、と彼が吐き捨てたときだ。
「ただいま!」
 柔らかな声が耳に届いた。どうやら、キラが帰ってきたらしい。
「お帰り、キラ。お客さんが来ているよ」
 そんな彼女の耳に届くように、少し大きめの声でギルバートは言葉を返す。
 そうすれば、キラの足音がこちらへと近づいてくる。
「お客さん、ですか?」
 そう言いながら、そっとドアから顔をのぞかせた。
「久しぶりだな、キラ」
 即座にカナードが微笑みを作る。その豹変ぶりはやはりラウと似ているな、とギルバートは心の中で呟いた。
 しかし、キラにしてみれば目の前の彼の表情がよく見知っているものらしい。
「カナード兄さん?」
 何でここにいるの? といいながらも、うれしさを隠しきれないといった様子で駆け寄っていく。
「半分は野暮用で、半分はお前達の様子を見に来ただけだ」
 しばらく、ここでお世話になる予定だ……と続ける彼に、キラは満面の笑みを浮かべてみせる。
 多少気に入らないことはあるが、キラが微笑んでいるからいいのか。ギルバートは自分に言い聞かせるように心の中でそう呟いていた。







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