「戻らなくてもいいのか?」 ユウナとその部下をパトリック・ザラ直属の者達に引き渡した後で、ラウがこう問いかけてくる。 「構わないだろう」 後のことは、彼等に任せておけばいい。ギルバートはそう言い返す。 「あちらのことはあの方々に任せておけばいい」 自分の今の立場では、直接手を下すことは出来ない。だが、彼等は彼等で今回のことを怒っているのだ。それなりの対処をしてくれるだろう。 「それに、私が向こうに戻れば、キラが不安に思うかもしれないよ?」 それは困るのではないか? と逆に聞き返す。 「……君がいなくても、私がいれば十分だと思うがね」 数瞬の間の後に、ラウはこう口にした。その中身は予想通りのものだと言っていい。しかし、そのためらいが真実だと本人も気付いているのではないか。 「本人に確認してみるかね?」 笑いながら聞き返す。 「やめておこう。あの子が何というかはわかりきっているからね」 どこか悔しげにラウは言葉をはき出した。 「まぁ、お前のような人間でも切り捨てられないところがキラの可愛いところなのだが……と彼は続ける。 「あの子をあのバカに取られなかっただけでもよかったと言うことにしておこうか」 それと、少しでもオーブに対してプラントが有利に建てればいい。 「今回のことは、サハクの双子に連絡をしておくが……構わないかな?」 そうすれば、あちらでも適切に対処してもらえるだろう。こう言いながら、ラウが見つめてくる。 「任せるよ」 ようは、キラに手出しをしようと思わなくなればいいだけのことだ。 でなければ、物理的に不可能な状況に追い込むか、だろうか。今回、可能なのは後者だろう。 「まったく……帰る途中に海賊にでも襲われてくれないかな」 ぼそっとラウが呟く。 「そうすれば、後腐れがなくていいのに」 別の意味で厄介なことになるかもしれないが、少なくとも、二度とキラの前に姿を現すことはないだろう、と彼は付け加える。 「そう言うことは、口に出さない方がいいと思うが?」 内容に関しては否定できないが。苦笑を浮かべながらギルバートが言い返す。 「お前の前だからに決まっているだろう?」 その言葉に、ギルバートはさらに苦笑を深めるしかできなかった。 数日後、オーブの使節団はプラントを離れた。その中にユウナ・ロマ・セイランの姿があったことは否定しない。もちろん、いてくれなくては困るのだが。 彼に関しては、二度とプラントに立ち入り禁止、ということで両国共に妥協をしたらしい。 しかし、オーブ側からプラントへと輸出される食料品その他の価格や何かに関しては、かなりこちら側が有利に立ったことも事実だ。 それは、ケガの功名というのだろうか。 「……問題なのは、今後のことだろうね」 この状況を『是』としない者達がいることは否定できない事実だ。 その結果、キラがどのような状況に追い込まれるか。 考えれば考えるだけ不安は尽きない。 「やはり、もう少し権限を強めておくべきだろうね」 できれば、彼女たちのことに関しては誰に相談をすることなく動けるように、だ。 「まぁ、彼も同じ事を考えているようだけど」 同じように自由に動ける立場にならなければ、とラウも考えているらしい。 「問題は、そうなればあの子達に寂しい思いをさせることになりかねない、ということかな」 それでは本末転倒ではないか。 「難しいものだね」 ギルバートはため息とともに言葉をはき出す。 その時だ。 「ギルさん」 ノックの音共にドアの外からキラの声が響いてくる。 「開いているよ。入ってきなさい」 言葉を返せば、直ぐにドアが開いた。そこから小さな顔が現れる。 「お茶にしませんか?」 そのまま、こう誘いかけてきた。 「そうだね。そうしようか」 ギルバートの言葉に、キラは微笑む。それに微笑み返しながら、ギルバートは腰を上げた。 |