どうやら、あのバカでもこのコラボレーションを聞き逃すのは『是』としていなかったらしい。 演奏が終わるまでは何もなかった。 「流石に素晴らしいね」 きっと、それはここにキラがいるからだろう。 彼女に最高の演奏を聴かせたい。そうラクスとニコルが考えたのではないか。 「キラの笑顔が一番のご褒美なのかな、あの方々には」 それがばれると、色々とうるさいことになるだろうな、とそう心の中で付け加えたときだ。 いきなり、客席の方が騒がしくなる。 反射的に、ステージの方へと駆け出す。 「ギルさん!」 そんな彼の動きに気がついたのだろう。キラが彼の名を呼んだ。 「大丈夫だよ」 今、事態を確認するから……と付け加えながら、彼女たちの傍まで止まることなく進む。 「それに、ここは安全だからね」 君達がステージの上にいれば、少なくともザフトの軍人達に潰されることはない。彼等にしても、足元を気にしなくてすむよ……とことさら軽い口調を作って言葉を重ねた。 「そうですね。とりあえず、騒動が起こっているのはあちら側のようですから」 そちらには子供の姿はないようだ、とレイが冷静な口調で続ける。 「子連れは子連れで別のエリアだったみたいよ」 自分たちもそちらに案内されたから、とルナマリアが口を挟んできた。 「ステージが見やすいように、だろうな」 大人が前の席にいれば自分たちの身長だとステージを見るのが辛いから。ラクスも、それでは納得できないだろう? とアスランが視線を向ける。 「えぇ。普段コンサートをしているようなホールなら、階段状になっていますから気になりませんけど、ここはそうではありませんもの」 特設だからしかたがないのだが、とラクスは微笑む。 「ですから、わたくしと同じくらいの年齢の方々やもっと小さな方々がいらしたら、見やすい場所へと案内して頂くようにお願いしましたの」 第二世代以降は子供の数が少ないから、そんなワガママもすんなりと聞き入れて貰った。ラクスはそう言ってさらに笑みを深める。 「それは正解だったようですね」 別の意味でも、とイザークが呟いた。 「あぁ。直ぐにザフトの人間が、そちらへの通路を塞いだようだからな」 しかし、何が起きているのかはわからない。そう言ってディアッカは眉を寄せる。 「とりあえず、パニックを収めないと」 だが、ラクスの声もこの騒ぎでは耳に入らないのではないか。ニコルがため息とともに言葉を口にする。 「しかたがありませんわね」 こう言いながら、ラクスがギルバートに視線を向けてきた。 「お使いになりますか?」 「えぇ。あれなら、多少の牽制にはなりますでしょう?」 それで我に返ってくれるならそれでいい。 「この状況ですから、多少の構成変更は許して頂けるでしょう?」 意味ありげな笑みと共にラクスはさらに言葉を重ねた。 「そうですね」 確かにこの状況ではしかたがない。同時に、ひょっとしたら、自分たちの思惑通りに自体が外れたからこの騒ぎが始まったのではないか。 だとするなら、逆にそれを使うことで連中の動きを止めることが出来るかもしれない。 「わかりました」 頷くと共にギルバートは舞台の袖にいる人物に合図を送る。 そのまま彼が奥に引っ込んで一呼吸置いたときだ。 周囲に軽い破裂音が響き渡る。 「……何?」 言葉とともにラクスをのぞく子供達が音がした方向へと視線を向けた。その方向がバラバラなのは、一カ所で音がしたわけではないだろう。 次の瞬間、視界を様々な色が支配する。 それは、紙吹雪や紙テープだ。その事実に気がついた客席の子供達が歓声を上げている。 「何なんだよ、これは!」 それに混じって、ユウナの叫びが耳に届いた。 |