ステージの袖からもキラ達の姿を確認することが出来る。ラウだけではなく、ユーリやシーゲルも傍に座っているのも、だ。そのせいだろう。彼等の周囲をSP達が取り囲んでいる。 これなら大丈夫だろう。 ついでに、これを見て諦めてくれると色々と楽なのだが。そう心の中で付け加えたときだ。 「……鼠さんはいらっしゃいまして?」 不意に背後からそんなセリフが投げつけられる。 「ラクスさま」 誰のことを差し手のセリフなのかは十分にわかった。しかし、と苦笑を浮かべながら彼女へと視線を向ける。 「確認しないと、イタズラは出来ませんでしょう?」 そんなギルバートにラクスはにこやかな表情でこう言い返してきた。 「イタズラは、全力で下準備をしませんと」 そのセリフには納得できる。しかし、ラクスの口から出るとなると何か違和感を感じてしまう。 間違いなく、それは自分たちが彼女に抱いているイメージのせいではないか。 清楚で慈愛に満ちた歌姫。それが、ラクスの歌声から抱くイメージだと言っていい。 だが、実際の彼女は違う。 他の者達と同じように――と言っていいものかどうか――子供らしい感情を見せる少女なのだ。 だから、イタズラの一つや二つ、したとしてもおかしくはない。 それはわかっているのだが、とギルバートは心の中で苦笑を浮かべた。 「確かに」 しかし、自分にも身に覚えがある。だから、と頷いてみせる。 「でしょう? それに、主役がいませんと、ね」 だから、来ているかどうかは自分にとって重要なのだ。そうラクスは付け加えた。 「とりあえず、ゲートでは確認できているそうです」 まだ席に着いていないようだが、とギルバートは告げる。 「あらあら。ひょっとして、ディスクをご購入頂いているのでしょうか」 だとするなら、少しぐらいは手心を加えるべきなのか。そう言いながら、ラクスは首をかしげる。 「そのような気遣いは無用かと」 購入してくれたとは言え、それ以上に自分たちを怒らせるようなことをしたではないか。 言外にそう告げれば、ラクスは人の悪い笑みを浮かべる。 「もちろん、忘れてなどおりませんわ」 そちらのおしおきはまた別問題だ。そう言い返された。特にキラのことは許し難い。 「こちらの要請を振り切って勝手にコンサートに来たことに関しては、手心を加えてもいいかもしれない。そう考えただけですわ」 「……それはそれは、失礼を」 まぁ、そう言うことならラクスの気持ちも理解できる。 「もっとも、あの時の発言は言語道断ですわ」 あれだけは許せない。 「だから、しっかりとおしおきをさせて頂きましょう」 くすくすと笑いながら、彼女はそう締めくくった。 「しかし、あちらも何をしでかしてくれるかわかりませんものね」 キラに万が一のことがあってはいけない。いったいどうすれば彼女を確実に守れるだろうか。ラクスはそう言って首をかしげる。 「ステージに上がって頂くのがいいのでしょうか」 それとも、と彼女は呟いた。 「あの子はそれを望みませんよ」 目立つのは嫌いだから、と付け加えればラクスは直ぐに「そうですわね」と頷いてみせる。 「なら、逆にあの方の姿をステージの上で皆様に見て頂きましょうか」 ステージの上に上げてしまえば記録が残る。そうすれば、あちらの方々も言い逃れできないだろう。 「勝手に移動したよい証拠になりますわ」 確かに、これ以上ない証拠になる。そして、あちらの鼻っ柱をくじくことも出来るのではないか。 しかし、ラクスに危険が及んでもいけない。 「わたくしのことは心配いりません。一人でステージの上にいるわけではありませんもの」 ギルバートの内心を読んだかのように彼女は笑みを深める。 「そのあたりのことは、わたくしに任せて頂けませんか?」 本当に侮れない方だ。そう思いながらギルバートは頷いて見せた。 |