流石にステージには近づけなかったのだろう。 だからといって見過ごせることではない。 「……座席に発煙筒ね」 いったいいつの間に、とあきれたようにラウが口にする。 「おそらく、昨夜だろうね」 しかし、とギルバートは眉根を寄せた。 「昨夜、あちらに動きはなかったのだろう?」 その表情のまま、こう問いかける。 「あぁ。少なくとも報告は受けていないね」 ここに誰かが侵入したという報告もないのだが……とラウも眉間にしわを寄せた。 「ということは、内部に協力者がいると言うことか」 一応、チェックはしたのだが……と彼は付け加える。 「かといって、今から一人一人確認するわけにはいかないしな」 そして、今日のコンサートを中止するわけにはいかない。そんなことになれば、パニックが起きかねないのだ。 それに便乗されては困る。 「最低限、あの子達の傍にいる予定の人間だけはチェックできるといいのだが」 彼等がそのような人間でないとわかれば安心できるのだが。 「その位なら大丈夫だろう」 もっとも、経歴を詐称していなければ、の話だが……と彼は続ける。 「……それに関しては、君が傍にいれば何とかなるだろう?」 少なくとも、味方が駆けつけるまでは……とギルバートが問いかけた。 「もちろんだよ」 何があっても、子供達を守ってみせるつもりだが……と彼は付け加える。 「ラクスさまの方はSPの方々がついているから大丈夫だろうがね」 「それだけが救いだね」 一番の問題はやはり《キラ》だろう。他の者達は、みなが顔を知っている。そして、本人達も自分の身を守るための技術を教えられているはずだ。 しかし、キラは違う。 そして、混乱の中であれば、あの小さな体を抱き抱えて運んでいても、安全な場所へ移動させているだけだ、と思う者も多いのではないか。 「それで、その発煙筒はどうしたんだい?」 撤去したなら、相手に気付かれている可能性があるが……とラウが問いかけてきた。 「あぁ。心配はいらないよ。似たような別のものにすり替えてある」 たまたま、演出で使おうと思っていたものらしいが……とギルバートは笑う。 「多少音は出るが……それだけだね」 相手も、じっくりと確認している暇はないはずだ。だから、気付かれないだろう。そう付け加える。 「もっとも、キツネとタヌキの化かし合いを繰り返しているような気がするのは否めないがね」 だからといって、見過ごすわけにいかないのもの事実だ。 「子供達に危険が及ばないなら、それも楽しめるが……」 そうできなければ、政治家なんてやっていられない。だが、大切な者達の身柄が関わっているとなれば話は別だ。 「同意だな」 ラウも頷いてみせる。 「だが、逆に言えば今が膿を絞り出すいいチャンスだ、ということでもある」 自分たちが子供達を守り消え倍いだけだろう、と彼は付け加えた。その様子が、自分に言い聞かせるように感じられたのは錯覚ではないだろう。 「そうだね」 確かに、自分たちが気弱になっていては、成功するものもしなくなってしまうだろう。 「失敗は出来ない。いや、しないよ」 そのために全力を尽くさなければいけない。ギルバートもまた自分に言い聞かせるように告げた。 「そう言うことだよ」 もっとも、その気になればどのようなことだって可能だ。ラウはそう言って笑う。 「さて……キラ達が心配しているね」 そろそろ戻るよ、と彼はその表情のまま口にする。 「あぁ。そうしてくれ」 もう少ししたらシーゲル達も来るかもしれない。だから、とギルバートも頷く。 「鼠たたきは徹底にしないとね」 さらに付け加えた言葉に、ラウは同意をするように肩を叩いてきた。 |