ラクスと共に、一足先に会場へと足を踏み入れる。 しかし、記憶の中と何かが違うような気がしてならない。 「どうかなさいまして?」 いったい、どうしてそう感じるのだろうか。そう考えていればラクスが声をかけてくる。 「すみません。何か違和感があるのですが……それが何であるのかわからないもので」 気のせいかもしれない。そう言い返す。 「そう言えば、夕べ、下見をされたのでしたわよね」 その時と何かが違っているようなのか、ラクスが見上げてきた。 「えぇ。ただ、何が違うのかと言われると、即答は出来ないのですよ」 自分はここの設計に関わっていない。だから、と続ける。 「いえ。一度でもごらんになった方が違和感を感じるのであれば、きっと何かが変わっているのでしょう」 そう言いながら、彼女は自分の傍にいるSPへと視線を向けた。 それだけで理解できたのか。彼等はラクスの元から離れていく。 「……デュランダル様」 それを確認したあとで、ラクスが視線を向けてきた。 「声の響きを確認したいと思いますの。お付き合い頂けまして?」 微笑みを浮かべるとこう問いかけてくる。 「もちろんですよ、ラクスさま」 女性のお願いを聞き入れないのは、男として失格だ。そう言いながら、ギルバートは彼女の方へと手を差し出す。 「なるほど。それをキラに対して実践なされていると」 意味ありげな口調で彼女は頷いてみせる。 それでも、優雅な仕草で差し出した手に自分のそれを重ねてきた。そのまま二人は歩き出した。 「当然のことをしているだけですよ?」 キラは淑女だ。だから、それにふさわしい対応をしているだけだ、とギルバートは言い返す。 「第一、あの子は小さな頃から傍で見ていますからね。他の女性と同レベルで考えるわけにはいかないでしょう」 あの子は特別なのだから。そう言って微笑む。 「……自分好みの女性になるように教育をされてきたわけですね」 しかし、どこをどう聞けばこのような結論になるのか。是非ともそれを聞かせてもらいたい。 「人聞きが悪いですね」 自分はキラの長所を伸ばすようにしてきただけだ。そう言い返す。 「ラクスさまも、そんなキラの性格がお好きだ、と思っておりましたが?」 「それは否定しませんわ」 キラのあの性格は自分にとって癒しだから。そう言ってラクスは微笑む。 「しかし、それとこれとは別問題です」 だが、直ぐに表情を引き締めるときっぱりと言い切った。 「キラが傷つく可能性があるのでしたら、全力で邪魔をさせて頂きますわ」 彼女が本気になれば、その言葉は確実に実行に移されるだろう。だが、とギルバートは微笑む。 「私にとって大切なのはキラの意志ですよ」 だから、キラが自分ではなく他の人間を選ぶのであれば、それを尊重するつもりだ。そうも付け加える。 「……どこまで信用してよろしいのかしら」 一緒に暮らしている以上、あれこれ裏から手を回すことが可能ではないか。そう言いたいのだろう。 「レイが傍にいますからね」 ラクスがそうする前に彼が邪魔をしてくれるに決まっている。言外にそう付け加えた。 「あらあら。わたくしとしたことが、大切なことを忘れていましたわ」 確かに、レイならそう言う点は厳しいだろう。でも、と彼女は続ける。 「あの方が認められても、わたくしが認められないという可能性がありますものね」 その時には同じことですわ。彼女の言葉と同時に、二人はステージの中央へとたどり着いた。 「ありがとうございます」 言葉とともに彼女はギルバートから離れていく。 「……本当に困ったものだね」 そんな彼女から遠ざかりながら、ギルバートは苦笑を浮かべていた。 |