その日の天気はとてよもかった。
 もちろん、プラントの天候はプログラムによってコントロールされている。それでも微妙な差違があると感じられるのは、自分がここで生まれ育ってきたからだろうか。
「すごく綺麗な空ですね」
 しかし、キラもこう言ってくれる。
「そうだね」
 そう言ってくれて嬉しいよ、と続けながら、キラの髪を撫でた。そうすれば、彼女は目を細める。
「こんな空の下なら、ラクスも楽しく歌えますよね?」
 その表情のまま、キラはこう問いかけてきた。
「きっと、そうだろうね」
 何よりも、彼女の声を聞きに来る人々が喜ぶだろう。そう付け加える。
「そんなに凄いのですか?」
 キラが目を輝かせながら、問いかけてきた。
「僕、ラクスの歌は何度も聞いていますけど、コンサートは初めてです」
 この言葉に苦笑が浮かんでしまう。
「ラクスさまに個人的に歌ってもらえるのは、それこそ名誉なことだと他の人には言われるだろうね」
 もっとも、友達であれば普通のことだろうが……と付け加えたのは、キラが自分の特権に萎縮しないようにと思ってのことだ。
 しかし、それは少し遅かったようだ。
「……僕、ラクスに気軽に『歌って』ってお願いしてた……」
 ひょっとして、それって……と彼女は不安そうに見上げてくる。
「だが、ラクスさまは『ダメ』とはおっしゃらなかったのだろう?」
 本当にダメなときは、あの方はきちんとおっしゃるよ? と微笑む。だから、気にしなくていいのだ、と。
「心配なら、コンサートの後でご本人に聞いてごらん?」
 この言葉に、キラは小さく頷いて見せた。
「それよりも、今日はみんなの側から離れないようにね」
 ファンの方々がどのような行動を取ってくれるかわからないから、とさりげなく話題を変える。
「そんなに凄いの?」
「熱狂的な方は柵を乗り越えて、毎回スタッフに押しとどめられるそうだよ」
 軍人でもそれは同じだろうからね、とため息をついてみせる。
「私はラクスさまの方にいるが、ラウが君達と一緒にいるから、心配だったら彼にくっついていなさい」
 それが一番安全だ。その言葉に、キラは小さく頷いて見せた。
「では、朝食を食べに行こうか」
 笑みを深めながら問いかける。
「みんなが心配して探しているかもしれないしね」
 さらに言葉を付け加えれば、彼女は考え込むように首をかしげた。
「ちゃんと、レイには『ギルさんの所に行く』って言ってきましたけど?」
 外の様子が見たいから、とそのまま付け加える。
「あぁ。ちゃんと話をしてきたのなら大丈夫だね」
 でも、他のみんなが失敗しているのかどうかがわからないだろう? と苦笑を浮かべた。
「それに、早めに食事にしないとラクスさまが出かけられてしまうよ?」
 あちらで準備をしなければならないこともあるからね、と言葉を重ねる。
「なら、ギルさんもですよね?」
 それにキラはこう聞き返してきた。
「あぁ。私なら気にしなくていいよ。仕事で食事抜きはよくある話だ」
 それに、自分は子供ではないからね……と続ける。一食ぐらい抜いても、成長には関係ない。
「いざとなれば、携行用の非常食もある」
 そう言っても、キラは納得できないようだ。
「朝ご飯は大切だって、お母さんが言っていました」
 だから、といいながら、彼女はギルバートの手を握りしめてくる。
「わかったよ、キラ」
 そう言いながら、その小さな手を握りかえした。

 手をつないだまま食堂へと向かう。それを見とがめた者達とどのような騒動が起きたのか。それはあえて書く必要はないだろう。







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最遊釈厄伝