「ギルさん!」
 そう言いながら、キラが駆け寄ってくる。
「お仕事はいいのですか?」
 真っ直ぐに抱きついてきた体をしっかりと抱き留めながら、ギルバートは頷いて見せた。
「ラクスさまのコンサートのお手伝いをするように、といわれてね」
 だから、半分、仕事のようなものだよ。そう言って微笑めば、キラは小さく首をかしげてみせる。そして、ギルバートに抱きついたままラクスの方へと視線を向けた。
「本当ですわ」
 ゆっくりと近づいてきながらラクスが頷いてみせる。
「ザフトの方も協力して頂けるのですが、やはり、手慣れていらっしゃいませんから」
 ギルバートも専門ではない。だが、彼等より離れている。だから頼んだのだ。そう言って彼女は微笑む。
「きっと、お父様がデュランダル様にお願いしたのだと思いますわ」
 こう言いながら、さりげなくラクスはギルバートからキラを引き離す。
 今までの彼女には見られなかったその行動に、ギルバートは反射的にラウへと視線を向ける。そこには勝ち誇ったような表情を浮かべている男がいた。つまり、自分がここに足を運ぶ前に根回しをすませていた、ということか。
「そうなんだ。でも、ギルさんも来てくれて嬉しい」
 だが、そんな周囲の思惑に気付くことなく、キラがまた抱きついてきた。
「そう言ってくれて嬉しいよ」
 言葉とともにギルバートは彼女の体を抱き上げる。
「少しやせたかな?」
 いつもより軽く感じられる体重に思わずこう問いかけてしまった。
「……そう、ですか?」
 そんなことはないと思う、とキラは口にする。
「なら、私の気のせいかな?」
 そんなはずはないと思うのだが。だが、無理に口を割らせることも難しい。
「まぁ、今日は一緒に食事が取れるはずだからね」
 その時に確認させて貰おう。こう言って微笑めば、キラは少しだけ困ったような表情を作った。
 これは、回りの者達が甘やかしたかな? と心の中で呟く。それとも、ストレスを感じるようなことがあったのだろうか。
 どちらにしても、後でラウに確認しなければいけないだろう。
「そうそう。シェフがね、君達に食べて欲しいと言って焼き菓子を山ほど持たせてくれたよ」
 まずは、そちらを食べるかな? と問いかければ、キラの表情がいきなり明るくなる。
「なるほど」
 どうやら、おやつでお腹をふくらませていたようだね……と苦笑と共に付け加えれば、キラは『しまった』という表情を作った。
「まぁ、そのあたりはみな慣れているからね」
 いつものように野菜やら何やらを材料にしているはずだ。
「でも、おいしいです」
 だから、好き……とキラは微笑む。
「それはよかった」
 なら、たくさん食べなさい。その言葉に、彼女は頷いてみせる。それを確認してから、ギルバートは彼女の体を下ろした。
「レイ」
 代わりに、もう一人の養い子の名前を口にする。
「君は歓迎してくれないのかな?」
 そう問いかければ、レイは一瞬考え込むような表情を作った。
「とりあえず、姉さんが嬉しそうですから」
 そう言う理由か、とつっこみたい。だが、それもレイだし、と直ぐに思い直す。
「よかった。君にもシェフからおみやげを預かってきたからね」
 やはり、みんなでわけて食べればいい。そう言って微笑む。
「……私にはないのかな?」
 不意にラウがこう言って口を挟んでくる。
「君は、自分の年齢を考えてはどうかな?」
 シェフにおやつを作ってもらって喜ぶような年齢ではないだろう。そう付け加えれば、彼は苦笑を作った。
「おやおや。私もまだまだ若いつもりだったのにね」
 そのまま付け加えられた言葉に、子供達も一瞬目を丸くする。だが、直ぐに笑い声がその場を支配した。







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